……こうして、旅物語をお話するのは久しぶりですね、竜の君。
随分と遅くなってしまいました。色々あったのは竜の君もご存知だと思いますので……怒っていませんよね?
……ふふ、それなら安心しました。それでは、始めましょう。ここに至るまでの彼らの軌跡を。
第三十七話「七つの旅-死/ダブル・キャスト」
突如として登った太陽と満月が周囲を煌々と照らしています。叡智の書にあった通り、これでは昼も夜もありません。
トリシア「どうしようかね……」
ノーティ「叡智の書曰く、ここから各地で異変が起こりはじめるというわけですから、対処を急ぎたいところですが」
パワー「つまり今は朝で夜なんだから 寝よう」
秋の竜「まあ間違いというわけではありませんが……」
ノーティ「一方で疲れを感じたら休憩を取らないと、いつまでも夜にはなりませんから、その点はパワーさんの言うとおりです」
ティエ「そうですねえ・・・」
ティエ「いつでもカグヤ・レイランスが強化されるのは便利かもしれませんけどね」
トリシア「常時魔法を掛けている状態なのだろうか?」
トリシア「どこからかこの魔法維持するための魔力が供給されているのか」
トリシア「もしくは一度発動してしまえば維持できるようなシステムなのか」
ティエ「また黒石で働かされている竜がいるとか?」
秋の竜「どうでしょうか……? どこで誰が使っているのかがわかれば辿れそうなものではありますが……」
ノーティ「どうなのか分かりませんが、魔力を得るために魔力を使って、その仕組が回るのでしょうか?」
トリシア「陽光石と共明石があれば可能っぽいよね」
トリシア「でもその共明石だの陽光石が魔力をだしてるから辿えるのかな?」
秋の竜「確かに、全く竜の力に頼っていないなら難しいかもしれませんが…」
トリシア「ところで喫煙所どこですか」
秋の竜「風下ならいいですよ、吸っても」
トリシア「スパー」
トリシアは色々と思慮を巡らせている内に、色々と疲れているようでした。色々なことが一気に起こりすぎて、私も人知れず混乱していました。
ティエ「とりあえずあぶないことになるらしいルーさん達と合流するのが先ですかね?」
ノーティ「ルーさんのところに行きたい気持ちはあるのですが、行って何ができるかというと、思いつかないんですよね……」
トリシア「マジックユーザーは魔力の流れとか感じたりできないの?」
ジョルティ「無理です」
ノーティ「前は魔力の導線が可視化されていましたが……今回は難しいでしょうね」
ジョルティ「美味しそうな飯の匂いなら辿れるけど」
秋の竜「何処かに向かうというなら、そのお手伝いなら出来ますが……」
「うーん……今のところ手がかりがありませんね……竜の君にも話しかけているんですが、返事がなくてですね……」
ジョルティ「えーそれってさっきのアリアちゃんの不調にも関係あるんじゃないの?」
トリシア「春の竜に会いに行く?」
ノーティ「先程感じたアリアさんの目眩についてどなたか見解をお持ちの方は?」
ラグナ「特にめまいのようなものは感じなかったが……」
ジョルティ「春の竜のとこ様子見に行った方が良くない?」
トリシア「よーし、金の鍵ガチャー」
「確かに、何かあったんですかねぇ…ってもう開けてる」
トリシア「先行っとくわ」
トリシアが即決で春の竜の棲家に向かうように竜の道を開こうと、目の前の空間に鍵を回しました。
しかし、その道の向こうは、何故か春の竜の棲家ではありませんでした。
ティエ「あれ?」
トリシア「どこここ」
竜の道の向こう側に見えるのは、高山の麓のようです。私はよく見覚えがある……竜の君の棲家がある高山の麓でした。
「あれ……? おかしいですね……」
トリシア「おかしいねー」
ノーティ「どういうことでしょう?」
ティエ「鍵酷使したせいで壊れました?」
「私の方でも試してみますね」
トリシアの竜の道が上手く繋がらなかったため、今度は私が竜人の力で道を開こうとします。しかし、その結果は同じでした。道は春の竜の棲家には繋がらず、トリシアの繋いだ道と同じく高山の麓に開きました。
「……? やっぱり繋がらないですね……?」
ノーティ「この山頂にいらっしゃるのでしょうか?」
クライブ「まあ、行きゃ分かるだろ」
「はい、この山頂が棲家なのでそれは間違いないと思うのですが……」
ジョルティ「ひょっとして…アリアちゃん…クビ…に…なった? ポンコツなせいで!?」
「ええ……私クビにしたら竜の君も飢えますよ」
ジョルティ「優秀な新竜人雇用したのかもしれへんやん」
「そんなにホイホイ新しい竜人はいませんよぉ。それに私、竜人の役割としてはそんなにポンコツじゃないんですってばー」
ジョルティ「そんな悠長に構えてたら、いつ足元掬われるか分かったもじゃないでっせぇ!」
ノーティ「……まあ、それは置いておいて。今から登るとしていつ頃に山頂につきますか?」
「うーん……普通に歩くとなると……」
「多分2日ぐらいだと思いますが……実際に歩いて登ったことはないんですよねぇ」
パワー「2日競争しよう」
パワー「山ぁ・・・登ろうぜぇ・・・」
トリシア「春の竜の元、または山頂には竜脈が無くなってると考えるべきだと思う。今山頂に繋ごうとしてみても駄目だった」
ノーティ「アリアさんは竜の君がどこにいらっしゃるか、普段から把握はしていらっしゃらないんですね。いつも動かないでしょうから、当たり前でしょうけれど……」
「ええ、四季の竜はそれぞれの場所から動いたりしないので……この場所以外にいることは考えられないですからねぇ」
クライブ「考えても仕方ない、登ってみるに限る」
クライブはそう言うと、一人で先に竜の道を通り、麓の方に向かってしまいました。
「あるいは竜の君が鍵を掛けているかですが……冬の竜のときのように。ただ、そんな理由もないですよね……」
トリシア「竜的にもアリアちゃんと繋がらなかったらお腹すくもんね」
「はい、そうですね。すぐにお腹が減るということはありませんが……」
トリシア「なるほどなるほど」
トリシア「他の竜が鍵掛けたりとかってできるもんなのかな?」
「いえ……棲家の持ち主の竜以外ではそんなことは出来ないと思います。棲家の竜ですらほとんどしないことですし」
「……とりあえず、登ってみるしかないですかねぇ」
私もクライブに続き、マスコットを使用して人間の姿になった上で竜の道の向こう側に出ました。他の皆もそれに続きます。ラグナさんは別の方法を考えるということで、そのまま残りました。
ジョルティ「この状態でトリシアが胸揉んだらどうなんの? 綿の柔らかさなの?」
ジョルティ「いけ!トリシア!」
トリシア「どこに揉む胸があるんだよ」
ジョルティ「やめたれ」
「何の話してるんですか突然!」
ノーティ「あまり時間的余裕はありませんが、動くことは考えづらい以上それを確かめる必要がありますね」
ノーティ「急いで登ってみましょうか」
トリシア「ラグナさんは付いてきてる?」
「いえ、ラグナさんは付いてきていません」
トリシア「何か言ってましたー?」
「他の竜人の方もそれぞれ調べた方がよいだろうということで……」
「私も含めて皆、まだ状況が全然飲み込めていないという所ですね……この魔法も、叡智の書に書かれていた未来のことも」
「登るようなら、私はしばらく化身で同行させてもらいますね。どうも体調が優れないので……」
トリシア「じゃあ登ろう」
トリシア「眠くなったら寝るってことで」
こうして、太陽と月が共演する中、高山を登りはじめました。私は小鳥の姿になり、荷運び動物の上に乗せてもらいました。時間がわからなくなっていますが、すでに夕方頃であるため、移動できる距離はそこまで長くはないでしょう。
トリシア「変なことが起こってるし気をつけて行こう…」
〈移動チェック:異天の高山:目標16〉
パワー:
21
クライブ:20
ティエ:7(失敗)
ノーティ:10(失敗)
トリシア:13(失敗)
ジョルティ:15(失敗)
ノーティ「ちょっと厳しいですねぇ……」
ティエ「そんな生易しいものでは……」
パワー「やっぱり山は最高だな!」
ジョルティ「ちょっと黙ってて」
〈方向チェック:異天の高山:目標16〉
ティエ:14(サポート成功)
ノーティ:16
ノーティ「……なんとか迷わずに来られましたね」
疲労困憊という様子ではありましたが、地図を見るのは慣れた様子でした。迷うこと無く山を登っていきます。ただ、数時間ほど移動した所で体力も限界が近く、そろそろ野営をしようということになりました。後、1日と半分ぐらいで、竜の君の元までたどり着くことができそうです。
〈狩猟チェック:高山:目標14〉
パワー:15(食料2獲得)
ジョルティ:21(包丁捌き:美味しい食料6獲得)
ジョルティ「動物はいるな」
パワー「飯作れ」
ジョルティ「言われなくてもそうする」
2人が狩猟に行っている間、他の皆は野営の準備を進めていました。
トリシア「明るいし、コテージ建てた方が良いと思う」
ティエ「そうですね」
〈ティエ:呪文魔法「エニウェア・コテージ」〉
発動判定:12
〈野営チェック:異天の高山:目標16〉
クライブ:18(サポート成功)
トリシア:17
コテージとクライブの手伝いもあり、野営の準備は上手くできたようでした。私としても、屋根がある所で寝られるのはありがたいことです。……特に体調が悪い時は。
「……本当に太陽沈まないですねぇ……」
トリシア「デスネー」
ノーティ「いい夢が視られますように……」
トリシア「寝れるときに寝たほうがいいと思うのルーちゃんの日記的に」
「相変わらず竜の君から声も聞こえませんし……」
「そうですね、眠れる時に寝ておくべきだと思います」
ティエ「できるだけ快適な寝床作りをしよう……」
〈ティエ:秋魔法「リン・リラックスオーケストラ」〉
発動判定:19
回復量:4
ティエ「魔力赤字だこれ……」
ティエ「3人分だけミノーンビバーク作っておきますね」
〈ティエ:秋魔法「ミノーン・ビバーク」×3〉
発動判定:7
トリシア「よし、じゃ寝よ」
ティエ「おやすみなさーい」
「はい、お休みなさいみなさん」
私も、早く体調を整えるために、少し早めに寝ることにしました。
~夏の月 5日~
目が覚めてもまだ、月と太陽が空に同居していました。私も私で、どうも昨日よりも体調が悪くなっている気がします……。こんなことは初めてで、密かに混乱していました。
〈コンディションチェック:補正(異天第1段階)-1〉
パワー:6
クライブ:8
ティエ:9
ノーティ:6
トリシア:11(絶好調)
ジョルティ:10(絶好調)
〈荷運びスキルによる振り直し〉
クライブ:Fumble(5)
何人かはそれでも体調が良いようでしたが……中には私と同じく体調が悪そうな人もいました。
ティエ「すばやくうごけなくなった……」
トリシア「気温は……ちょっと高いぐらいでそんなに上がってはいないかな?」
トリシア「アリアちゃんがいるってことはオルクスちゃん出てきてないか……」
「死の竜人になにか用事があるのですか?」
トリシア「何か言いにこないかなーって。あ、そうだ、麓に繋がるか鍵試してみよう」
トリシアが懐から金の鍵を取り出し、麓の方に向かって竜の道を繋ぎます。麓には問題なく、道が繋がったようでした。
クライブ「この鍵ほんと麓好きだな」
トリシア「開くってことはここはまだ竜脈あるのか」
トリシア「たしか竜脈ないところへと竜脈ないところからって開けないよね?」
「そうですね、繋げません」
トリシア「はい。竜脈がなくなるとしてもつながってる場所の位置くらいは把握しておきたいよね」
「そうですね……一切状況がわからないのは困りますし……とりあえず、棲家までは後1日半程の距離…だと思います」
ノーティ「急ぎますか」
トリシア「一気にいったほうがいいかな?」
「どうでしょう……皆さんもあまり体調が優れないようですし……あまり無理をしない方がよいのではないかと思いますが……」
ノーティ「ルーさんの日誌を見てしまった以上、あまり余裕を持って行動してもいられない気がして……」
トリシア「山頂のほうは……霧が掛かっていて見えないね」
トリシア「霧……かあ。まあ進もう」
「今日も化身で失礼しますね……」
野営を片付けると、皆はすぐに出発しました。パワーすら薬草取りに行こうと言い出さない程度の迅速さで進みます。
〈移動チェック:異天の高山:目標16〉
パワー:8(失敗)
クライブ:8(失敗)
ティエ:11(失敗)
ノーティ:8(失敗)
トリシア:14(失敗)
ジョルティ:14(失敗)
パワー「よし、下山しよう。そういや草も食ってない」
ノーティ「そろそろハーブボトルの期限が切れるので、余っていたらあげますよ」
パワー「じゃあもう食べていいってことだよね?」
トリシア「ゴミ箱かな?」
〈方向チェック:異天の高山:目標16〉
ティエ:11(サポート成功)
ノーティ:Fumble(羽飾りの効果で通常失敗:移動距離半減)
霧のせいか、ノーティは珍しく地図を見るのに失敗してしまったようでした。効率的な道を通るのが難しい場所ですね……。
ノーティ「すみません!
やるだけのことはやったんですが……!」
「なかなか複雑ですからね道も……」
ジョルティ「この悪天候だ仕方ないさ」
トリシア「やっぱり疲れた休もう。麓も見ておく」
トリシアは再び鍵を取り出し、麓に向かって竜の道が問題なく開くことを確認していました。
「この当たりもまだ竜脈はあるようですね……」
トリシア「ね、じゃあなんで上につながらないんだ」
「なぜでしょう……?」
ジョルティ「飯の時間だ! 取ってくる!」
〈狩猟チェック:高山:目標14〉
パワー:13(失敗)
ジョルティ:15(包丁捌き:美味しい食料2獲得)
ジョルティ「ツミレにするぞーーー!!」
パワー「動物なんているわけねえよな!」
2人が狩猟に出かけている間、ティエがエニウェアコテージの魔法で場所を作り、野営の準備が進められていました。
ティエ「いえをー たてよー」
ティエは何故かテンションが上がっているのか、そんな風に口ずさみながら魔法陣を描いていました。
〈ティエ:呪文魔法「エニウェアコテージ」〉
発動判定:23
〈野営チェック:異天の高山:目標16〉
クライブ:
17(サポート成功)
トリシア:17
コテージとクライブによるサポートもあり、野営の準備はなんとか上手くこなせたようでした。ちょうどその頃狩猟の2人も戻ってきて、食事を済ませ、寝る準備が始まりました。
「今日もお疲れ様でした」
ノーティ「区切りをつけないと終わりが分かりませんね」
トリシア「ちょっと気になる事があるので、叡智の書のところ行ってきていいすか」
ノーティ「はい?
構いませんが」
トリシア「じゃあちょっと見てくる」
トリシアは金の鍵で世界樹の叡智の書のある小部屋へと道を繋ぎ、一人でそのまま向かっていきました。中では依然として、ノーティが閲覧者となっているままで叡智の書が開いているようでした。
トリシア「春の竜について教えておーくれ」
トリシア「今週分以降で良いよ」
【検索:春の竜】
膨大な検索結果。省略形式での閲覧を推奨。
トリシア「それでいいよ」
【省略閲覧実行……】
【完了】
【創人歴5744年秋の月~創人歴14742年夏の月】
多様な情報が散在。情報の統一傾向は認められず
【創人歴14742年夏の月以降】
竜人:アリアの担当情報のみ存在。14743年以降の記録は認められず
トリシア「……? 未来の記事、それしかないの?」
【14742年以降の情報は極少数のみ】
トリシア「うーん……急がないといけない気がしてきた」
トリシア「……戻るかー」
こうしてトリシアも皆の元へと戻り、その日は休むことになりました。
~夏の月 6日~
相変わらずの異常な空模様に気が滅入ってきます。気分の問題ではなく体調が悪いのも続いており、実に困ったものです……。
〈コンディションチェック:異天補正-1〉
パワー:7
クライブ:18(絶好調)
ティエ:17(絶好調)
ノーティ:12(絶好調)
トリシア:Critical(17:絶好調)
ジョルティ:5
「おはようございます……どうも寝起きが……」
ティエ「おはようございます! なぜか体調がいいです!」
パワー「うるさいんじゃい!」
皆もはやこの天候に適応したとでも言わんばかりに、多くが体調が良さそうでした。羨ましい限りですね……。
「棲家までは後1日程の距離のはずです……」
クライブ「さっさと向かうか」
パワー「今日は草取るぞぉ!」
〈草取りチェック:高山:目標14〉
パワー:12(失敗)
ノーティ:5(失敗)
ノーティ「草なんて探している場合か!」
パワー「えっ」
ノーティ「えっ?」
パワー「草は……いるでしょ?」
ノーティ「やれやれ……」
結局ハーブを取ることはできなかったようで、2人は薬草取りをすぐに切り上げて戻ってきました。程なくして、頂上に向かって再出発します。
〈移動チェック:異天の高山:目標16〉
パワー:7(失敗)
クライブ:22
ティエ:11(失敗)
ノーティ:6(失敗)
トリシア:22
ジョルティ:13(失敗)
ティエ「だめだー……疲れたー……」
ノーティ「さすがに辛いですねぇ……でも地図を見ないと……今日はちゃんと」
〈方向チェック:異天の高山:目標16〉
ティエ:12(サポート成功)
ノーティ:19
今日は2人ともしっかりと地図を確認することができ、最短とまでは行かないまでも大幅に遅れることがなく道を進むことができました。
体感ではそろそろ夜にならんとする頃に、ようやく春の竜の棲家へと辿り着きました。
トリシア「竜脈チェックしよう」
トリシアが習慣のように金の鍵を麓に回すと、問題なく道は繋がりました。
「……これは、竜脈が消えているのではないようですね」
トリシア「ということは春の竜の身に何かが!」
トリシア「急ごう」
「かもしれません、それなら、私の体調がわるいのも納得がいきます」
パワー「うぃーっす」
ノーティ「そうですね、急ぎましょう」
そうして皆は霧の向こうの竜の君のいる場所まで向かいます。そして、そこで竜の君の姿を見たのでした。
そこにいた竜の君は、いつもの元気な姿ではありませんでした。
ぐったりと頭を垂れています。見たところ、体に黒い魔晶が付いているように見えました。……この時のことは、あまり覚えがないのではありませんか? 血の気が引くとはこういうことか、と実感したものです。こんな感覚はラ・ヴィス以来でしたよ。
ティエ「いつぞやの石だー!」
さらに、竜の君の左右にはそれぞれ、大きな陽光石と月光石が飾られており、強い輝きを放っていました。
ノーティ「!?」
そして、竜の君の目の前には、魔法陣が描かれていました。幾つもの魔法陣が重なり合ったような、巨大なものです。
……その中心では、紫色のローブを羽織り、右目にモノクルを装着し、首に銀色の鍵を下げた見知った顔の男が跪き何かの魔法を詠唱していました。
そこにいたのはゼペリオンの麓の村、クレインで出会った自称大魔法使いであるヴィルフランシュでした。
ヴィルフランシュ「”我らは所詮地に這う虫、竜の足を這いずる虫に過ぎない”」
ヴィルフランシュ「”それでも我らは生き続ける。七つの世界の神々の加護の元で”」
ジョルティ「やっぱあいつ……!」
ノーティ「どうして……!?」
ティエ「なんだろうあの詠唱……?」
トリシア「ちょっと静かに。まだこっちに気付いてない。……不意打ちしよう」
クライブ「……同意する。何をしているかは知らんが、ロクでもないことなのは間違いない」
トリシアは皆に視線を合わせ、小さく頷きました。それから皆静かに武器を構え、手振りで合図をすることでタイミングを合わせ、ヴィルフランシュの元へと同時に駆け寄りました。
〈不意打ち判定:対抗〉
トリシア:14
ヴィルフランシュ「3(察知失敗)
〈戦闘開始(不意打ち)〉
ヴィルフランシュ「……君達は……」
クライブ「よう。とりあえず死んでおこうか」
ヴィルフランシュ「……面倒なことだ。全く……」
トリシア「ほんとなー」
ジョルティ「状況は掴めないが、お前がやってる事が正しくないというのは解ってるしとりあえず一発殴らせろ」
トリシア「本当に大魔法使いだったんだなあ」
ヴィルフランシュ「そうだと言っていたのだがな……」
トリシア(うーん、黒水晶はお爺ちゃんの影で狙えそうにないかー)
トリシア「あと大泥棒だったとは」
ヴィルフランシュ「フフ……なんとでも言うがよい。我が目的のためには仕方がないことだ」
トリシア「動物は持ってないな! なら本気が出せる!」
ジョルティ「とりあえず殴る!」
パワー「俺達の珍味をいじめるんじゃあない!」
……人生、いえ竜生長いとはいえ、珍味扱いされたのは初めてではありませんか?
〈ラウンド1〉
【ジョルティ】
〈攻撃→ヴィルフランシュ〉
命中判定:15
ダメージ:0(出血付与)
ジョルティの矢はヴィルフランシュの体表で止まり、その場で落ちてしまいました。ダメージが通っている様子がありません。しかし、うっすらと出血だけはしているようでした。
ジョルティ「どういうことだ?」
ヴィルフランシュ「……傷が付いたのは久しぶりだな」
【トリシア】
〈知見→ヴィルフランシュ〉
判定:6(失敗)
〈攻撃→ヴィルフランシュ〉
命中判定:17
ダメージ:0
かなり勢い強く放たれたと思われたトリシアの矢でさえ、ヴィルフランシュの体表に触れたかと思うとその場にポトリと落ちてしまいました。ヴィルフランシュは全く意に介していない様子でした。
【ティエ】
〈知見→ヴィルフランシュ〉
判定:7(失敗)
〈ターン消費知見→ヴィルフランシュ〉
判定:16
ティエの目には、ヴィルフランシュの体を覆うように強い魔力の膜があるのが見えました。
ティエ「む、何か膜がありますよ!」
ティエ「この膜はどこからきてるんだろうなぁ……」
ヴィルフランシュ「分かった所でどうにかなるものか……」
【ノーティ】
〈春魔法「カグヤ・レイランス」→ヴィルフランシュ〉
発動判定:17
ダメージ:5(10軽減)
煌々とした満月の力によって、カグヤ・レイランスは普段よりも力強く放たれたように見えました。
光の膜で大幅に軽減されたものの、確かにダメージは通っているようでした。
ヴィルフランシュ「なかなかやるではないか」
ノーティ「あまり効いているようには見えない……」
【ヴィルフランシュ】
〈詠唱継続〉
ヴィルフランシュ「”願わくは我らに幸運を。竜亡き世界でも依然変わらぬ幸運を”」
ヴィルフランシュは何かの魔法のを詠唱を続けています。足元の大きな魔法陣の一部が呼応するように輝いていました。
〈魔法結晶:黒い魔獣〉
そして同時に、懐から魔法結晶を取り出し、それに魔力を込めました。すると目の前に、大きな黒い獣が現れました。大きな牙に鋭い眼光を持つその獣は、皆に向かって小さく吼えました。
【クライブ】
クライブ「何が来ようと同じこと」
〈攻撃→ヴィルフランシュ〉
命中判定:22
ダメージ:5
クライブの攻撃も魔力の膜によって弾かれているようではありましたが、それでもわずかながらにヴィルフランシュを害することに成功したようでした。
クライブ「まあ、それなりか」
ヴィルフランシュ「……野蛮な」
クライブ「本当の野蛮人がもう一人いるがな」
パワー「誰の事っすかねぇ」
【パワー】
〈攻撃→ヴィルフランシュ〉
命中判定:9(失敗)
〈左手攻撃→ヴィルフランシュ〉
命中判定:5(失敗)
クライブ「……おい」
パワー「動くなよ!」
クライブ「動いてないぞアイツ」
パワー「だったら当たってるはずだろ!」
あまりに大ぶりなパワーの攻撃は空を切り、ヴィルフランシュに命中することはありませんでした。
〈ラウンド2〉
陽光石、月光石、そして竜の君に付けられた黒い水晶、3つの石の輝きが強まっているように見えました。この時、私の体調もさらに悪化しているのを感じました。皆の後ろで座り込んでしまっていましたが、気付かれてはいなかったことでしょう。
【ジョルティ】
〈知見→ヴィルフランシュ〉
判定:6(失敗)
〈春魔法「スプラウト」→自身〉
発動判定:Critical
ジョルティ「これでよし! 覚悟しやがれ」
ヴィルフランシュ「……」
【トリシア】
〈知見→黒い魔獣〉
判定:5(失敗)
トリシア「うーん、よく分からん」
〈フェイント→ヴィルフランシュ〉
成功判定:14
イニシアチブ-1
【ティエ】
〈知見→黒い魔獣〉
判定:5(失敗)
〈ターン消費知見→黒い魔獣〉
判定:5(失敗)
ティエ「……全然わからない」
トリシア「つくづく動物に弱いよねうちら」
【ノーティ】
〈知見→黒い魔獣〉
判定:10(失敗)
ノーティ「……さっぱり」
ノーティ「まあ良いでしょう、あの魔獣は本筋ではありません。ヴィルフランシュさん、申し訳ありませんがそれ以上その魔法を続けさせるわけにはいきません」
ヴィルフランシュ「ほう、どうするつもりだ」
ノーティ「……魔法陣と3つの石の距離からして、これなら……」
〈呪文魔法「ウォー・メタフィールド」〉
発動判定:18
ノーティのウォー・メタフィールドによって、皆とヴィルフランシュ、それに魔獣がいる空間と、その周囲の空間とが断絶されました。
3つの石と魔法陣との接続が遮断されたようでした。
ヴィルフランシュ「……成る程。そういう方法があったか」
ノーティ「もう止めませんか」
ヴィルフランシュ「いいや、そうは行かない」
ノーティ「……」
【黒い魔獣】
〈攻撃→パワー〉
命中判定:14
ダメージ:2(防護3)
〈2回攻撃〉
命中判定:13
ダメージ:5(防護3)
【ヴィルフランシュ】
ヴィルフランシュ「……年季の違いというものを教えてあげようじゃないか、青年よ」
〈魔法結晶:「ウィンター:アーリーモーニング」〉
ヴィルフランシュが新しく懐から取り出した魔法結晶に魔力を込めると、周囲から音が消失しました。周囲に使用されていた魔法も消失し、ウォー・メタフィールドも破壊されます。
そしてヴィルフランシュはその直後、その魔法の効果を解除しました。
ノーティ「!!」
ヴィルフランシュ「知っていたかね青年、魔法というのは詠唱者が好きな時に解くことができるのだよ」
ウォー・メタフィールドが解け、ウィンター:アーリーモーニングの効果も即座に解除されたことによって、再び魔法陣に魔力の供給が再開されました。そしてヴィルフランシュは、先程の大魔法の詠唱の詠唱を続けます。
〈詠唱継続〉
ヴィルフランシュ「”満ちる天光よ、世界を見守る星辰の神よ。我らの願いを聞き届け給え。我らの祈りを聞き届け給え”」
ヴィルフランシュ「”時は来た。時渡りの道よ開け。今こそ我らの望みのために”」
ヴィルフランシュ「”創人歴7266年 夏の月8日”」
ヴィルフランシュ「では……さらばだ、旅人達よ」
ヴィルフランシュの詠唱に応じるように、巨大な魔法陣の中心に大きな竜の道のような穴が開きました。皆が止める暇もなく、ヴィルフランシュはそれに呑み込まれるようにして姿を消しました。
クライブ「ちっ。殺しきれんかった」
ティエ「あれは……叡智の書で読んだクロックフォールの魔法……」
ノーティ「……時を遡ろうということですか」
トリシア「じーさん消えよった……とりあえず春の竜助けよう。まずは魔獣をなんとかしないとね」
時の扉はまだ開いたままで、黒い魔獣は残されており、3つの石もまだ輝いたままです。そして、竜の君も(もちろん私も)まだぐったりとしていました。
【クライブ】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:22
ダメージ:10
【パワー】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:13(失敗)
〈左手攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:12(失敗)
パワー「あったらねぇー!」
クライブ「ちっと落ち着け」
〈ラウンド3〉
【ジョルティ】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:9(失敗)
ジョルティ「確かに当たらない」
【トリシア】
〈攻撃→黒い魔晶〉
命中判定:11(失敗)
〈リーダースキルにより判定+1〉
命中判定:12
ティエ「もうちょっと上じゃないですか?」
トリシア「あ、そうかも」
ダメージ:6
ティエの助言もありトリシアの矢は竜の君に付けられていた黒い魔晶に命中しましたが、それだけではまだ壊れていませんでした。
【ティエ】
〈知見→黒い魔獣〉
判定:19
ティエ「ようやくわかった。今更感はありますが」
〈呪文魔法「シューティング・スター」→黒い魔晶〉
発動判定:15
ダメージ:8
ティエのシューティング・スターもまた、黒い魔晶へと命中しました。ぐらついたようではありましたが、まだ外れるまでには至りませんでした。
【黒い魔獣】
〈攻撃→パワー〉
命中判定:19
ダメージ:6(防護3)
〈2回攻撃〉
命中判定:21
ダメージ:0(防護3)
【ノーティ】
〈春魔法「カグヤ・レイランス」→黒い魔晶〉
発動判定:8(失敗)
ノーティ「むっ、当たりませんか……」
【クライブ】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:14(失敗)
クライブ「避けたか……」
【パワー】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:19
ダメージ:3
〈左手攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:8(失敗)
パワー「やっと当たった」
〈ラウンド4〉
大魔法によって開いた時の扉は依然として開いたままです。
しかし、周囲の環境が変わってきました。周囲の木々が突然枯れ始めているように見えます。
【ジョルティ】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:12(失敗)
ジョルティ「くそが、当たんねえ!」
【トリシア】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:13(失敗)
トリシア「すばしっこいなー」
【ティエ】
〈ターン消費知見→黒い魔晶〉
判定:13
ティエはジッと黒い魔晶の性質を観察し始めました。
ティエ「……春の竜から魔法を吸って、何かに使っているようですが……あの魔法陣ではなさそうですね。何に使っているのでしょう……?」
トリシア「そうだったのかー」
ノーティ「何にせよ、早く解き放ってしまいましょう」
【ノーティ】
〈春魔法「カグヤ・レイランス」→黒い魔晶〉
発動判定:14
ダメージ:15
ノーティのカグヤ・レイランスによって、黒い魔晶は貫かれてその場にポトリと落ち、足元で真っ二つに割れました。
同時に竜の君も頭をもたげ、じっと黒い魔獣の方を見据えています。私の体調も、一気に回復したような気がしました。
そしてそれと共に、周囲を包んでいた異常な天の状態が元へと戻っていきます。太陽が沈み、あるべき夜の姿へと戻りました。
しかし、周囲の木々はまだ枯れたままでした。
「竜の君! 状況は後で説明します、今は手伝って下さい」
ノーティも空の状態が戻ったことを確認すると、今度は魔獣の方へと目を向けました。
【黒い魔獣】
〈攻撃→クライブ〉
命中判定:21
ダメージ:6(防護4)
〈2回攻撃〉
命中判定:22
ダメージ:4(防護4)
クライブ「久しぶりに深手を負ったな…いったい」
【クライブ】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:17
ダメージ:12
クライブ「よし、手応えはあった」
【パワー】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:19
ダメージ:14
〈左手攻撃〉
命中判定:8(失敗)
「……竜の君はまだ動けないようです。そのままとどめをお願いします」
〈ラウンド5〉
【ジョルティ】
〈攻撃→黒い魔獣〉
命中判定:24
ダメージ:10
そして、ついにジョルティによる矢が突き立ち、黒い魔獣はその場に倒れました。もう動く様子はありません。この場の危険は、とりあえず排除されたように見えました。
【戦闘終了】
〈材料加工:目標18〉
ジョルティ:18
ジョルティは手際よくその黒い魔獣から毛皮を剥ぎ取りました。そこそこの価値があるファーのようなものが取れたようでした。
ジョルティ「装備します」
トリシア「くさそう」
ジョルティ「もっふもふ」
トリシア「絶対臭い」
トリシア「……さてどうしよう」
「……竜の君を助けてくれてありがとうございました」
トリシア「竜とお話するか」
「何でも、4日の夕方頃に突然現れた彼に黒い魔晶を付けられたとか……」
「それで、制御できなくなり棲家が閉じられてしまってしまったようです」
トリシア「ほうほう」
ジョルティ「警備ザルすぎひん?」
「普通、竜の加護が無いものは竜が招待しない限り、棲家には入れないはずなのですが……」
トリシア「銀の鍵もってたよね」
「はい……どうも、その鍵が皆さんの持っている金の鍵と同じようなものだったようで、竜の道によって入ってきたようです」
トリシア「オルクスちゃんが絡んでる事には違いなさそうだよね」
「……死の竜とその竜人の動きは分かりませんね…何が目的なのか全く掴めていません……」
ノーティ「月と太陽を制御する魔力は竜の君から吸収していたようですね?
黒魔晶の破壊でどこまで世界の異変はもとに戻ったのでしょうか……」
トリシア「求めたら云々って言ってたから取引したと思うよ今までの雰囲気的に」
「はい、どうも竜の君の魔力を使って太陽と月を操り、その魔力を使ってあの時の魔法を使ったようですね……」
「分かりません、少なくとも昼夜は戻ったようですが……。ルーの未来の日記が正しければ、まだそれほど大きな問題にはなっていないのではないかと」
ノーティ「死の竜は結局何が目的なのでしょうね。我々をここまで導いたのもオルクスさんの力が多分にあると思われるのですが、一方で世界を終末に向かわせようとするのも……」
クライブ「まあ、少なくとも自死するような事をそそのかしゃせんだろうし目的はあるだろうが不明ではあるな」
「呼べばきてくれれば良いんですがね……」
トリシア「冬の竜人と連絡ついたりとかは?」
トリシア「会わなきゃだめなんだっけか」
「冬の竜の元に行けば、冬の竜経由で連絡出来ると思います」
トリシア「叡智の書で、ルーちゃんの日記とさっき言ってた日について調べてもいいかと」
トリシア「でも……」
ノーティ「じっくり調べている余裕はなさそうですね……時の扉が閉じかかっているように見えます」
太陽が沈んだことで魔力の供給が途切れつつあるのか、時の扉の勢いは少しずつ弱まっているようでした。
クライブ「ま、考えても仕方あるまい」
ノーティ「入って元を絶つのも手かとは思います」
クライブ「じゃ、先行くぞ」
そういうと、クライブは先に時の扉へと飛び込んでしまいました。
ノーティ「あっ」
ティエ「ええ……」
ノーティ「調べるのが間に合えばいいのですが……」
トリシア「竜脈って時間も飛べたりするかな、無理カナー」
「いえ……それは出来ないと思います」
「私達竜人は実はある程度なら時間を戻すことはできますが」
ノーティ「ええっ!?」
トリシア「ええっ」
ティエ「未来へ向かう大呪文さえ解っていれば安心して…え?」
「実は一度使っているんですよ、これも。でも、皆さんはそのことに気づいていないでしょう?」
トリシア「なんだってー」
「竜人の時を戻す力は、世界ごと時を戻すものです。時の扉のように、人だけを過去に戻すような力はありません」
「……しかし、どうしましょうか。クライブが入ってしまいましたが……」
トリシア「アリアちゃん皆が行ったら来るの?」
「ええ、その時は私も」
ノーティ「……私が叡智の書まで行って調べてきましょうか。皆さんはその時の扉へ……」
トリシア「いや待って、ダッシュで叡智の書に行って魔石とりにいこう」
トリシア「叡智の書は7000年代にもあるでしょ」
「ああ、なるほど!」
トリシア「すぐ戻る」
トリシアは金の鍵で叡智の書の元まで飛び、即座に叡智の書の魔法結晶を回収して戻ってきました。
「確かに過去の世界でも世界樹はあるはずです」
「というより、当時ならまだ世界樹の機能が生きているはず!」
トリシア「とってきました」
ジョルティ「調べたきゃ過去で調べればいい」
トリシア「だよね」
ノーティ「当時から見られる情報には限りがあるとは思いますが、それでもまあ……」
トリシア「未来のこともわかるしね」
ジョルティ「パワーの物忘れは治らないけど」
トリシア「過去のパワーにも関係があったり、なんてね!」
トリシア「じゃ、行こう」
ノーティ「ともかく、そういうことなら向かいましょうか」
ティエ「まあもどれそうなら……」
ノーティ「創人歴7266年へ」
こうして、私と皆は共に時の扉へと入り、遥か5000年も昔へと向かうことになったのでした。
時の扉の中は黒い空間が広がっており、水の流れのようなものに乗って移動しているような感覚がありました。
それでは、そんな空間を移動していると、突如として白い霧のようなものが立ち込めてきました。皆がその霧の中へと取り込まれ、姿を消してしまいました。後で日記を見て気が付いたのですが、この時また死の竜人が現れていたようです。
「……再び会えたな諸君」
ノーティ「あっ!」
ティエ「あっ」
トリシア「また夢なの?」
「色々と訊きたいことはあるだろうが、残念ながら十分な時間があるわけではない。私はこの時の扉の向こう側に出ることはできないのでな」
「半ば夢だが、すぐに戻る」
トリシア「実際呼んでもきてくれないんだねオルクスちゃん」
「残念ながらこのような形以外では直接干渉が出来んのだ」
「これだけは言っておきたい。私にも、勿論我が竜にもこの世界を滅ぼそうという意思は全くない。そんなことをすれば我らも滅ぶだけだからな」
クライブ「破滅願望者なのかと思ったが違うのか」
「ああ、違う……だが、しかし謝らなければならないこともある。フリーグゼルに端を発した様々な問題は、全て私の責任によるものだ。そして、それをまっすぐ伝えることをしてこなかったことも謝罪する。申し訳なかった」
「……創人歴7266年夏の月8日、この扉の向こうのその時はドーレスの大災害の1週前だ」
「あの男は……あの厄災を無かったことにしようとしているのだろう。……しかし、そんなことをしても結末は変わらない。大洪水がなくとも、”死の竜”の定めた通りに魂は循環するのだ」
「しかし、あの男だけは例外だ。あの男は”死の魔法”によって、この世界の理から外れている。……詳しくは話しきれそうにない。そのことも全て、叡智の書に記してある」
クライブ「死人の出方が変わるだけ、か」
「その通りだ。いざとなれば隕石でも落ちるのだろう。あるいはより多くの人が犠牲になるかも知れん」
トリシア「でも叡智の書は自分らからは見れないんでしょ? 制限がどーのこーのって」
「いや、この先の時代の世界樹で叡智の書を開けば、全てを観ることができるはずだ」
トリシア「ソウナノカー」
「制限が施されるよりも前の時代だからな……」
ノーティ「あなた方はヴィルフランシュ氏を止めるために我々を導いたのですか?」
「その通りだ」
トリシア「私達も例外に入るのだろうか」
「いや、君達は例外ではない。死の魔法はまだ君達には使われていないよ」
「……叡智の書の台座に着いたならば、この魔法結晶を使うと良い。そうすれば、竜人が現れる、その者に厄災の話をすれば手を貸してくれるだろう」
私は白い魔法結晶を、どうやらこのパーティのリーダーらしい少年へと手渡す。……彼女なら、きっと手伝ってくれるだろうと願って。
ティエ「では」
トリシア「あと死の魔法使われてるからあのおっさんも鍵持ってるってことでいいのかな」
「いや、少々違う。あの男は自分でその鍵を開発した」
トリシア「わお…」
「……というより、この金の鍵はそれを真似して作ったものだ。多少改造は加えてあるが……」
「その改造というのが、その金の鍵の白い宝石だ。その白い宝石には君達の”元の時代”の魂の一部が込められている」
トリシア「ほうほう」
「その魂が楔として、道を繋いでくれるだろう」
トリシア「私らが戻る方法って事になるのかな?」
「その通りだ」
トリシア「はーい」
トリシア「優しいんだねおるくすちゃん」
「……いや、全く。勝手に君達を巻き込み、利用したようなものだ」
「……私の旅も、ようやくこれで終わる。……随分長くなったが」
クライブ「竜が旅とは」
「ものの例えさ、半分はな……」
トリシア「叡智の書にいけば自分らの旅が終わると聞いて行った気がするんですが……」
「君達にとっても、これが最後の旅になるだろうさ。時の旅以上の旅は、中々できたものではないだろう」
「それでは……ヴィルフランシュのことを。過去の世界のことを頼む。武運を」
願わくは、この私のままでもう一度彼らと会いたかったものだ。……度々済まなかったなアリア、だったかな。
いずれ会えることがあれば、その時は、よろしくしてやってくれ。
Orcus
すぐに、霧は消え、皆の姿も戻ってきました。ここで一人にされたらと思って実は結構ビクビクしていたのですが、すぐに戻ってきてくれたので良かったです。
そして程なくして、黒い空間に光が見えてきました。そこは、皆と私の旅が始まった、あの平原でした。
平原に降り立ち周囲を見渡してみても本当に時が戻っているのかどうか、確信できるようなものはまだありませんでした。
トリシア「アリアちゃんオルクスちゃんに会って話したよ」
「……死の竜人と? 神出鬼没ですねえ……」
ティエ「神出鬼没というかそこにしか出られないというか……」
「竜人のよしみで私にも挨拶の一つぐらいしていけば良いと思うんですけどねー」
トリシア「そんなわけであの魔法使い窃盗団のおっちゃんは死の竜と契約してるらしいっす」
「ふーむ……死の竜と」
トリシア「でもよろしくないから止めてくれってさ」
「なるほど……これは要するに、体よく尻拭いを押し付けられましたね?」
トリシア「あと叡智の書行ってなんか魔法結晶使ってこいってさー。当初からそんな感じだったよ」
「そうだったんですかー 私は日記越しでしかお会いしてないんですよねぇ……」
トリシア「主にこれ返しといてとかそんなのばっかり」
「不思議な人ですねぇ本当に……」
第三十七話「七つの旅-死/ダブル・キャスト」 了
兎にも角にも、こうして私達は過去の世界へと到着しました。ここでどのようなことが起こったのか……ゆっくりとお聞かせしますよ。
このあたりのことは、竜の君も気になっていることでしょう? きっと、これまででも一番、美味しい旅物語となったんじゃないかと、我ながら自信作ですよ。
【MVP:トリシア】
こちらは、2017/3/17.24に行ったオンラインセッションのリプレイです。
物語は最終局面へ。タイムスリップというありきたりな大展開を用意して恥ずかしくないのか!? と思われそうですが、結構楽しんで作りました。
ヴィルフランシュは歴代NPCの中でもトップクラスのお気に入りです。ポッと出のように見えますが、実はフリーグゼルではチラっと登場していたので、それほどポッと出ではありません。
今回、初めてPL側からの不意打ちが提案されて、確かに大丈夫そうだということで受けたのですが、ヴィルフランシュの余裕綽々の態度とは裏腹に結構「破綻しないかな!?」とドキドキしながらマスタリングをしていたのは秘密です。
ドーレスの話がもう20話ぐらい前のことなので、伏線回収遅すぎない?という感じではありますが、次回もお待ちいただけますと幸いです。
残す所は後2話です!
【参考サイト】
0 件のコメント:
コメントを投稿
ご意見・ご感想、お待ちしております。