遅くなりました、竜の君。少々長くなってしまったもので、手間取ってしまいました。
レパーリアに辿り着いた彼らが見たのは、人気の無い街並みでした。住宅からは光が溢れているものの街灯は点いておらず、暗闇が支配しています。
今回は闇の中のレパーリアで何が起こっていたのかをお話しましょう。
第二十三話「闇夜に影と踊れ」
彼らは人通りの無い暗闇の中でも、それほど慌ててはいませんでした。冷静に周囲を見渡し、状況を確認しようと努めています。
ルー「……誰もいませんね?」
ノーティ「何があったのか、予想してみましょう」
ジョルティ「冬篭りって雰囲気でもないよな…」
ティエ「可能性一、夜だけ人がいない。可能性二、人が襲われていますごい少ない。可能性三、その他」
ノーティ「可能性四、何かに怯えて家にこもっている。可能性五、何かに熱中して家にこもっている」
トリシア「朝まで待つのも手かな?」
ティエ「まぁ光が漏れているところで聞き耳を立てればなにか聞こえるんじゃないですか?」
ノーティ「誰も居ないのなら入っても怒られたりはしないでしょう。それこそ家にノックでもして」
〈動物探し(気配探知)〉
クライブ:14
クライブ「外には全く人の気配がないが……家の中からは一応声が聞こえるな」
トリシア「あの2人、レパーリアについて何も言ってなかったよなぁ。使えねーな!」
あの2人というのはリーズさんの旅人たちのことかと思いますが……確かに、彼女たちはレパーリアから来たと言っていましたが、このような特殊な状況になっていることは話していませんでした。
〈伝承知識〉
ティエ:16
ノーティ:18
ティエ「確かレパーリアには夜にこもるような変わった風習はなかったと思います」
ノーティ「そうですね…聞いたことがありません」
〈教養知識〉
トリシア:6
ジョルティ:12
ジョルティ「香木が名産なこと以外はよく知らないからなあ…」
トリシア「場所ぐらいしか知らない」
ジョルティの言うとおり、街中には微かに香木の香りが漂っていました。彼らリーズさんの旅人たちから貰った、香り袋の香りと同じ香りです。
ノーティ「つまり、異変があるということでよさそうですね……?」
クライブ「間違いなさそうだ。さて…どうしたものか」
その時、ジョルティが突然大声を上げはじめました。
ジョルティ「守衛さんとか、誰でもいいからいませんかー!?」
ノーティ「!?静かにしてください!」
クライブ「バカ!状況も分からないのに何叫んでるんだ!?」
ジョルティの叫び声に誘われたのか、あるいはそれを止める声に誘われたのか……直後、突如として巨大な黒い影が目の前に現れました。
其の姿は獣のようでもあり、竜のようでもあり、人のようでもあり……どのように形容するべきか定まりません。一言でその姿を言い表すのであれば「恐ろしい魔物」でした。
ジョルティ「いやいや、異常事態なんだから現地民に尋ねるのは常套手…だん?」
クライブ「なっ…?!」
突如現れた恐ろしい魔物に、パワーはすぐに殴りかかろうとしました。それを必死にティエが押しとどめています。ノーティは一瞬硬直していました。
その魔物のあまりに恐ろしい姿に、彼らは皆ショックを受けているようでした。ティエとジョルティだけはある程度冷静を保っているようでしたが、他は皆冷静な判断力を保つことができていませんでした。
【恐ろしい魔物】
パワー・クライブ・ノーティ・トリシア・ルー:ショック(10)
ジョルティ「おい!みんなどうした!?」
ティエ「うっわびっくりした!」
ジョルティ「ヤバイのには間違いねぇ!!」
ノーティ「これが街の異変の正体ですか…?」
ルー「な、なんですか!?に、逃げなくて良いんですか!?」
その時、トロンベ……クライブの乗っていた乗用動物が甲高い鳴き声を上げながら暴れだしました。そして、そのまま街の闇の中を駆け抜けてどこかに消えてしまいました。
ルー「クライブさん!」
ノーティ「今は逃げましょう!」
トリシア「あああああ」
ティエ「と、とりあえずドラコニカを!」
〈ティエ:呪文魔法「オープン・ドラコニカ」→恐ろしい魔物〉
発動判定:19
咄嗟にティエがオープン・ドラコニカの呪文を唱えますが、呼び出された魔物図鑑は微動だにしません。全くページを捲ることなく、そのまま消えてしまいました。
ティエ「魔物じゃない!?」
ジョルティ「落ち着け!まだ慌てる時間じゃない!」
ティエ「敵対生物じゃないけどすごい怖い生物です!いみわかりません!」
ノーティ「畏怖の対象ってことですか!?
分かりません!」
ジョルティ「お前は何者だ!!答えろぉい!」
彼らが恐ろしい黒い影に相対し戸惑っていると、近くの住宅のドアが開かれました。中からその家の住人が「早く!入って!」と彼らに叫んでいます。
ティエ「はい!」
ジョルティ「皆、早く!」
ノーティ「助かります!」
トリシア「助けてー」
街の闇に消えたクライブ以外は、皆その住宅へと駆け込みました。皆が入ったことを確認し住人は急いでドアを閉めます。恐ろしい黒い影は家の中に入ってくることはなく、そのまま夜の闇に溶けていきました。
〈察知:敏捷+知力:目標10〉
ティエ:12
ジョルティ:8
ティエは家に駆け込む最中、闇に溶け込む黒い影の後ろに、何か淡く白く光る人影があったことに気が付きました。その人影も、程なくして闇の中へと消えていきました。
ティエ「今の…何でしょう」
トリシア「夢に出てきそう。この街どうなってるんだー」
ジョルティ「クライブは…ほっとこう、多分大丈夫だろう」
トリシア「さようならクライブ」
ティエ「諦めないで下さいよ。あとでドラゴンサインで場所を伝えておきましょう」
彼らが息を整え終えたころ、家の住人が声を荒立てました。
家の住人「はぁ…良かった、無事で。どうして夜に外にいるんですか!?」
ティエ「今着いたので…」
トリシア「今きたの!」
パワー「今!」
〈礼儀作法:対抗〉
ジョルティ:13
家の住人:10
ジョルティ「助けて頂いてありがとうございます。我々は旅のもので今着いたばかりなのです。一体何が起こっているのでしょうか?」
家の住人「……夜は門が閉まっていたのでは…いえ、ともかくそうでしたか、今しがたついたのなら、知らなかったんですね…。…どうやら、悪い人というわけではないようですね」
トリシア「門番もだれもいなかったから何か起きてるのかと…」
家の住人「今、レパーリアでは夜間の外出が禁止されているんです。夜にだけ、あのような恐ろしい魔物が現れるということで…解決ができるまでは、日が沈んだら外には出ないように、と領主様が」
ティエ「ふぅむ…しかもドラコニカにも反応なかったんですよねぇ」
トリシア「でも家の中までは来ないんだね」
家の住人「私達も詳しいことはわからないんですが…そうなんです、家の中にいれば安全みたいで…。恐ろしいので私達はこのように家に」
ジョルティ「キナ臭いね、領主は何か知ってそうだな」
ティエ「こわいなー、おっかないなー」
ノーティ「……我々が非力な旅人で、相手も単に強力な魔物とあらば放っておいたかもしれませんが…」
彼らはヒソヒソと小さな声で相談をしています。ドラコニカに反応しなかったことが、かえって不気味さを増しているようでした。
ジョルティ「ここの領主様には旅人でも謁見可能ですか?」
家の住人「領主様ですか…?いえ、どうでしょう…今は件の魔物対策で忙しいので、お目にかかれないかもしれません」
家の住人「皆さんも、この街では解決するまでは夜に出歩かないようにしてください。危ないですから…」
ジョルティ「ありがとうございます、後日直接伺って見ます。ついでと言っては何ですが、厚かましいお願いではありますが、朝まで匿って貰っても?」
家の住人「ええ、皆さんも知らなかったようですし…、十分な設備がないのでリビングで恐縮ですが、朝まで使っていただいて構いません」
ジョルティ「感謝します」
こうして彼らはその家の軒を借りることになりました。ティエはいつもどおりミノーン・ビバークを使い、寝る準備を整え始めます。
ルー「何だったんでしょう…あんな恐ろしい獣、見たことがありません…」
ノーティ「見たことがない……それはそうでしょうね……」
ルー「あんな大きな牙があって…目が赤く光っていて…」
ルーがそう言った時、皆、何か違和感を覚えたように怪訝そうな表情をしました。
ティエ「あれ? 目は青で牙はそんなに大きくなかったと思うけど…あとなんか白い影が」
ノーティ「はい? 牙? 赤い目?
ちょっと待って下さい、何か思い違いをしていませんか?」
ルー「えっ…?大きな人狼のような魔物でしたよね…?」
クライブ「いや、黒っぽくて、二足歩行でネズミのような…」
ジョルティ「え?寄生生物じゃなかったか?」
ノーティ「もっと地を這うような……大きな影の……緑とグレーが混ざったような……」
ティエ「見えたものが各々違う…?」
ノーティ「何か精神に侵食するような魔術でしょうか?」
ティエ「あと”黒い影の後ろに何か淡く白く光る人影があった”んだけど」
ジョルティ「それぞれ違う事言ってるな…。ティエの言ってる奴は見てないなぁ」
ルー「白い影…何なんでしょう…」
ジョルティ「ティエのドラゴニカに反応が無かったって事はだ、そいつが何かしてた可能性が高いのかね?」
ティエ「呪いの類ですかね…?」
ノーティ「誰が何故どうやって……」
ジョルティ「いずれにせよ情報が足りんな。夜が明けるのを待ってから領主のとこに向かおう」
ティエ「そうですね、とりあえず休みますか…ノーティさん、ドラゴン・サインでクライブさんに連絡しておいてもらえますか?」
ノーティ「ああ、そうですね、分かりました。”この辺りの民家にて待つ、朝に合流頼む”とこんな感じで送っておきます」
ルー「クライブさん、無事だと良いですが…」
こうしてノーティが魔法で連絡を取り、その日は民家で休むことになりました。その頃、ノーティからのドラゴン・サインを受け取ったクライブは町外れまでトロンベに運ばれ、そこにあった馬小屋で眠ることを決めていました。
~冬の月 6日~
恐ろしい夢に苛まれながらも目を覚ますと、外は晴れていました。皆、民家のリビングを借りているということで早く起きて家を後にすることにしたようでした。
〈コンディションチェック〉
パワー:6
クライブ(雑魚寝):5or10
ティエ:16(絶好調)
ノーティ:12(絶好調)
トリシア:Critical(14:絶好調)
ジョルティ:10(絶好調)
ルー:9
〈荷運びスキルによる振り直し〉
クライブ:13or9
程なくして、馬小屋で寝ていたクライブも合流しました。皆、そこまで体調が悪いわけではなさそうです。
ルー「おはようございます。怖い夢を見てちょっと寝不足です…」
ノーティ「クライブさんも無事で何より。昨日のことを少しお話しますとですね…」
早速、ノーティがトロンベから降りたクライブに昨日民家で聞いた話をしはじめました。その上で、仮説を述べ始めます。
ノーティ「あれは、精神に干渉する魔法なのではないかと。ティエさんがみたという白い影、それがこの魔法の詠唱者なのではないかと思います。ご静聴ありがとうございました」
クライブ「ふむ…なるほど。ずいぶん面倒な生き物だな」
ティエ「そもそも生き物なのかどうか…」
ルー「魔法…ですか…」
クライブ「で、どうするんだ」
ティエ「とりあえず領主様に聞いてみる? さっさと街を出るのも手だけど」
ノーティ「このことについて調べている他の人達もいるかもしれません。とりあえずこの都市の頭脳となる場所などを知りたいですね」
ノーティ「ここでこの都市を見捨てては名折れですよ。それにしても領主様に会うなら何かしら理由が欲しいですね」
ノーティ「ニーナさん、クレールさんはこの問題に直面していないでしょうね……つい最近の問題であると推察されます」
ジョルティ「領主が把握してるって事は領主も調べてるだろうから直行でいんじゃないか?あの町民の口ぶりだと戒厳令的なのが既に敷かれてるっぽいし。」
クライブ「動物連れて移動するのも面倒だ、どこかに宿を取ってから決めたらどうだ」
ノーティ「領主様にとっても目の上のこぶといったところでしょう、直接そのお手伝いをさせて頂くということで参りましょうか?」
そこで、皆がぐるりと街を見渡しました。街を見渡すと、大きな建物が2つ目に入ってきました。街の中心から東寄りの辺りにある大きな館と、街を出て少し東に行った辺りにある大きな城です。
ティエ「なんかでかい建物があるんですけど、あれなんでしょう?」
トリシア「昨日の家の人に聞いてみたら良いんじゃない?」
ティエ「確かに。すみませーん、ちょっと聞きたいことがあるのですがー」
軒を貸してくれた家の住人は、すんなりと出てきて話しを聞いてくれるようでした。
家の住人「町中の大きな館は領主様の館ですね。東のお城は旧城で…今は立入禁止になっています」
ティエ「なるほど。。。じゃぁとりあえず領主の家いってみます?」
ノーティ「館へ行きましょう」
ジョルティ「あと、この街の名産料理は何ですか?」
パワー「大事なことだな」
トリシア「香木が有名らしいし、燻製とか?」
家の住人「いえ、香木はそういったものではないですね。環境もあってあまり普通の食材が長持ちしないので、干物や漬物のような保存食が多いですね。新鮮な食材はポトフのような料理にしてしまうことが多いです」
ジョルティ「ポトフは食ったな…ありがとうございます」
ジョルティ「よし、散策がてら館に向かうか?」
ノーティ「情報もアージェントのように館に集中しているかもしれませんからね」
ティエ「道すがら、特産品も売ってしまいたいところですね。リンゴと香辛料で荷物が一杯ですし」
ジョルティ「お世話になりました。あなた方もお気をつけて」
家の住人「ええ、皆さんも気をつけて下さい」
こうして、皆民家から離れ、中心街の方へと歩き始めました。
ティエ「じゃあ宿確保して、香辛料売って、リンゴ売って、領主の館?」
クライブ「それでいいんじゃないか。任せた」
ノーティ「とりあえず宿だけは確保しないことには」
ルー「こうしてみてみると、大きな街ですね!夜に出歩かなければ、良い街なんでしょうけど…」
ジョルティ「夜来た時はヤバイ雰囲気しかなかったけど、昼間は立派な街だな」
ティエ「あ、そこそこ大きな店がありますね。じゃ、先に宿を探しておいて下さい、売ってきます」
クライブ「荷降ろしに付いていく。後は任せた」
ティエとクライブが商店に特産品を売りに行っている間に、他の皆が宿を決めていました。今回は個室の宿を取ることにしたようですが…。
ルー「あ、あのトリシアさん。ここで泊まる間、一緒の部屋で泊まっても良いですか…?ちょっと、個室を取るのはお金が足りなくて…」
ジョルティ「守銭…ティエがなんとかするか大丈夫だよ」
ノーティ(それはそうだ、気が利かないなあ、我々は)
トリシア「金ならある」
ジョルティ「ルーちゃんは全く心配しなく良いぞ」
ルー「い、いえ、その…できれば一緒の部屋で…。半分はお出ししますので…。あの、ちょっと、怖くてですね」
ジョルティ「だってよトリシア良かったな」
トリシア「ん、良いよ」
部屋を取った辺りで売り買いの終わったティエとクライブが合流しました。
クライブ「やれやれ…リンゴの荷降ろしが面倒だった」
ティエ「今回もそこそこの収益」
ルー「お疲れ様です!」
宿を取り終わり、不要な荷物を置いて改めて領主の館へと向かいます。領主の館は高い石塀に囲まれており、鉄で出来た門扉の前には武装した門番が立っていました。
ティエ「こんにちはー」
門番「こんにちは。領主様とお約束がお有りですか?」
〈礼儀作法:対抗〉
ジョルティ:13
トリシア:13
門番:9
トリシア「約束はありませんが…」
ジョルティ「私達は旅の騎士です。この街の異変について火球の用件のため、至急領主様にお目通りを」
門番「騎士…ですか?失礼ですが何処かのご所属でしょうか」
トリシア「所属、というほどではないけれど、アージェントの騎士勲章があります」
ジョルティ「貴殿に責任が取れるなら気長に待つが、如何なされるか?」
ジョルティはアージェントの予備騎士勲章を盾に威圧的に門番に迫ります。門番の方も少し気圧されてしまっているようでした。
門番「アージェントの、なるほど、分かりました。確認を取ってまいりますので、暫しお待ち下さい」
門番が館の中へ入り、10分ほどで戻ってきました。
門番「お待たせ致しました。誠に申し訳ありません、やはり領主は本日予定がありまして…。こちらを言付けとして受け取っております」
門番は赤い蝋で封がされた手紙をジョルティに手渡しました。
ジョルティ「ごほん、左様ですか」
ジョルティは受け取った手紙を、その場で開こうとしました。慌ててクライブがそれを止めます。
クライブ「待て待て、目の前で開くな」
ジョルティ「別に構わんでしょ、急用って言ってあるんだし」
クライブ「そこまで火急じゃなかろう。一旦宿に戻ってから読もう」
トリシア「じゃあ、帰ろう」
クライブ「ああ。門番、我々は中央街の宿にいる、何か用があれば連絡してくれ。では」
なんだかどっちがノーブルなのか怪しい気配がしますが、ともあれ手紙を受け取って宿へと戻りました。宿に戻り、ティエの部屋に集まって領主からの言付の手紙の封を切ります。
代表してジョルティが手紙の内容を読み上げました。
ジョルティ「アージェント予備騎士の皆様ご助力のお申し出、誠にありがとうございます。当方、此度の問題につきまして検討を重ねている関係で、暫く昼に時間を取ることができません。誠に申し訳ございませんが、夜間にご来訪頂けると幸いです。だとさ」
トリシア「予備騎士ってバレちゃってるのね」
ジョルティ「まあ、騎士なことは嘘じゃないし、問題はないでしょ」
クライブ「面倒だな…寝る時間どうするんだ」
ノーティ「クライブさんそこですか」
クライブ「折角個室取ったんだ、もったいなかろう」
トリシア「夜にうろつくのもアレだし日が落ちる前に向かったほうが安全かね」
ジョルティ「えっ、美味い飯は?」
ノーティ「夜間こそ危険だということは承知でしょうに……特性が掴めないまま外を出歩くのは避けたいところですが如何します?」
トリシア「だから日が落ちる前にって今言ったんだけど!」
ノーティ「すみません、ちょっと考えながら喋っていたもので…異存はありませんよ」
ジョルティ「なんで無視するの?」
クライブ「何でだろうな?」
ノーティ「ともかく、夕方まではすることもないですね。ルーさんも一緒に向かいますか?
本人の意志に任せますが」
ルー「わ、私は…待ってます」
クライブ「まぁ、よかろ。いきなりのデカブツとの戦闘は荷が重いだろうしな」
ルー「お役に立てそうにないですし…」
ノーティ「ルーさん……それもまた良いでしょう、経験とするにはいささか相手が大きすぎるきらいがありますね」
ジョルティ「じゃあ俺も。ご飯が勿体無いので。皆の分も食べとくね」
ティエ「にがさん」
ジョルティ「ちっ」
こうして、皆はルーを残し、夕方になった頃に領主の館へと出かけていきました。ルーは一人で部屋に残されて不安そうではありましたが、家の中は安全ということでしたから、大丈夫でしょう。
日が沈む少し前に領主の館の前に到着しましたが…門は閉じられており、門番もすでに引き払っているようでした。
ティエ「あれ?いない」
クライブ「ちっ…面倒だな」
ノーティ「夜中に呼ばれているわけですが、既に誰もいないというのはどういう了見でしょう?」
トリシア「待ちぼうけ食らったときのためにコテージだしとく?」
ティエ「領主への抗議活動みたいになっちゃいますけど…まあ、魔法陣だけでも書いておきますか」
クライブ「…門ごと斬るか?」
ティエが領主の館の門の前の道路にエニウェア・コテージの魔法陣を書き始めました。そして魔法陣の外縁が書き上がった時…突如として、その魔法陣の中心に「黒い影」が現れました。
ティエ「!?」
クライブ「ぬ…召喚魔法なんてあったか?」
ティエ「なんでウチの魔方陣から昨日のがでるの!?」
二度目とは言え、恐ろしい姿であることに変わりはありません。一部の者は恐慌状態に陥ってしまっているようでした。
ティエ「いや、家召喚だけどさ!だけどさ!」
ジョルティ「黒いの相変わらずきっしょいなー」
トリシア「やっぱりまたでたかー。実は領主だったりして?」
クライブ「…これは面倒なプレッシャーだな」
ノーティはその状況で、周囲を警戒しながら見渡しました。すると、昨日ティエが見たという、「白い影」を黒い影の後ろに見つけました。
ノーティ「…確かに白い影がいますね」
ティエ「でしょ?」
黒い影と違い、白い影は誰からみても同じ姿に見えているようでした。私の目からも、少し身長が高い、スレンダーな女性の影に見えました。
皆、その白い影に注目しますが、誰にもその正体は分かりません。
トリシア「こんばんはー!」
白い影はトリシアの叫び声に反応し、塀を回り込むようにして逃げていきます。黒い影は依然として魔法陣の中に残り続けていますが、動く様子はありません。
ティエ「あ、逃げた!」
ジョルティ「なんだ、見掛け倒しな感じだな」
ティエ「白いのおっかける?」
ノーティ「それとも館の扉を叩きましょうか?」
クライブ「ぬ…この黒い影、あるいは…」
クライブは何かに思い至ったように、残された黒い影へと手を伸ばします。クライブの手は黒い影に触れることなく、そのまま突き抜けました。私の目からは、クライブの手が黒い影の体を貫通しているように見えました。
ノーティ「!」
クライブ「…やはりか。精神攻撃の一種か?」
ジョルティ「大丈夫そうだな」
ティエ「あれ、触ったのになにもおきないねぇ」
クライブの反応を見て、今度はノーティが何かに思い至ったようでした。突然、何かの魔法を詠唱しはじめました。
〈ノーティ:冬魔法「ウィンター:アーリー・モーニング」〉
発動判定:7
(周囲の音と魔法効果を無効化する魔法)
ノーティの魔法詠唱と同時に、周囲から音が消え去りました。そして、同時に目の前の黒い影も跡形もなく消滅します。……ここから暫くは私がこの時、突如として目覚めた読唇術による会話内容なので、間違いがある可能性があります。
ティエ「あ、消えた」
トリシア「なんか消えたけど音も消えた」
ジョルティ「見たことないが、こけ脅し魔法だなこりゃ」
ノーティ「やはり魔法によるものでしたか……領主様へ報告するには良い情報ではないでしょうか」
ノーティ「あ、そうか、聞こえないのか…」
クライブ「何も聞こえんが、どうせまぁ支障はあるまい」
ノーティ「皆さん、こちらに。魔法の範囲から出て下さい」
ノーティが一足先に魔法の範囲から離脱し、皆を手招きしました。皆もそれに従うように魔法の範囲から離脱します。
〈知見:恐怖の魔法について〉
ティエ:20
ジョルティ:16
ティエ「…状況から察するに、夏魔法の”トライ・ブレイブ”ではないでしょうか?」
ジョルティ「だな、夏魔法は使い手がいないから気が付かなかったな…」
トリシア「トライ・ブレイブってどんな魔法なん?」
ティエ「対象の精神に干渉して、最も恐ろしいと思うものを見せる魔法です。それ以上の力はありませんが…昨夜のことを考えると十分な効果だったかと」
トリシア「なるほど、それで見えてるもんが違ったのね」
クライブ「まぁ、なんであれ報告は必要だろ」
ティエ「でもまだ夜じゃないんだよなぁ、先に白い方追いかける?」
トリシア「門あかねーし追いかけるかね?」
クライブ「じゃあ、白い影の痕跡を追ってみるか…」
〈動物探し〉
クライブ:9
〈捜索〉
トリシア:17
クライブは目を凝らして白い影の痕跡を辿ろうとしますが、白い影が通ったと思われる場所には全く何の痕跡も残されていませんでした。
クライブ「…生き物ではない、か?」
トリシア「あの速さで逃げたとすると、今頃塀の後ろに回り込んでるね」
ノーティ「マジックユーザが必ずしも生物とは限らないというのは今思いついたことですが」
トリシアによる白い影の位置情報を受けて、ジョルティがその方向へ向います。ジョルティが追いかけると、白い影は塀を回り込んだところですでに姿が見えなくなっていました。
ジョルティ「いねぇ…?」
トリシア「この辺りかなー?」
ジョルティを追いかけるようにトリシアも塀の向こう側へと回り込みます。そして、先程目星をつけた場所辺りで、石塀に小さな窪みがあることに気が付きました。
トリシア「なんかあった。窪んでる」
トリシアが窪みを覗き込むと、そこには小さなバルブのようなものが見えました。ここで、ノーティとティエも遅れて合流します。
ジョルティ「バルブね。よし、回してしまえ!」
クライブ「おい、ちょっとは考えて…」
ジョルティ「そこにバルブがあるからさ!」
制止を全く聞くことなく、ジョルティが窪みに手を入れて小さなバルブを回しました。バルブが回った瞬間、配管の中を何か気体のようなものが通るような音が響きます。
それからすぐに、どのような仕組みになっているのかは皆目検討も付きませんが……目の前の塀の一部が地面の中へと下がり、屋敷の敷地内に入ることができるようになりました。
クライブ「…なんだこれ」
ジョルティ「隠し扉か」
トリシア「こっちにきたってことはやっぱり領主絡みっぽいよねー…アージェントみたいなことになってなきゃ良いけど」
ティエ「まぁ…行きます?」
トリシア「夜に来いって言ってたし、丁度いいんじゃない?」
ジョルティ「せやな、招待状?みたいなのもあるし、合法侵入ということで」
……見咎められたら違法侵入になりそうではありますが。
ティエ「どうやって閉めるんだろうなぁ…」
クライブ「何かあれば帰ればよかろ」
ジョルティ「お邪魔しまーす」
皆、連れ立って下がった塀を超え、領主の館の敷地内に入りました。すると、背後で再び配管を気体が通るような音がして、塀が元通りになりました。
目の前には小さな扉が開け放たれていて、扉の向こうには下り階段が続いています。
クライブ「…念のため気配だけでも探っておくか」
〈動物探し〉
クライブ:13
クライブ「人間の気配…2人か?どうする」
トリシア「何かあっても2人相手ならなんとでもなるでしょ。行こ行こ」
ノーティ「退路が絶たれたというわけではないですが、前進に1票という状況でしょうか」
ジョルティ「危害を加えるつもりなら最初からやってるだろうさ」
ジョルティを先頭に、石段を下っていきます。石段を降った先に、もう1つ扉がありました。扉の向こうから皆の気配を察したのか、「本当に来るとは…!入って下さい」というような男性の声が聞こえてきました。
トリシア「来いって書いてなかったっけ?」
ジョルティ「じゃあ、遠慮なく。お邪魔様ー」
ノーティ「大体分かってきましたよう……」
クライブ「…まぁ、いいか」
クライブはまだ警戒を解いておらず、剣の柄に手を掛けていました。ジョルティが扉を開けると、その向こうは小さな部屋のようになっており、そこには2人の人が待っていました。
1人は高価そうな服に身を包んだ、50歳前後の男性です。もう1人は2つの魔法陣が描かれたベッドに腰を掛けた、黒い服に身を包んだ40歳前後の女性でした。
女性は、先程見た白い影と同じ姿をしていました。
ジョルティ「あー…そういう」
ノーティ「やはりそうでしたか」
男性「ようこそいらっしゃいました、アージェント予備騎士の皆様」
ジョルティ「素性もご存知のようで。これまでの事についてご説明願えますか?」
トリシア「すんげー歓迎されていなさそう」
男性「いえいえ、そんなことはありません。皆様が、いえ、皆様のような方々が来てくださるのをお待ちしておりました」
ノーティ「ええ、むしろ用事があって呼び出してくださったのでしょう?」
男性「順を追って説明を致します…私はライナ・エル・レパーリア。この街の領主です」
男性はそう名乗ると、改めて頭を下げました。ノーティやティエはそれに合わせて頭を下げていましたが、クライブはまだ視線を切っていません。ジョルティとパワーは頭を下げる理由が分からないというような顔をしていました。
ライナ「こちらはエルデ、私の妻です」
領主であるライナの紹介に合わせ、今度は女性の方も頭を下げました。
ジョルティ「大層な方が大層なご歓迎で」
ライナ「……この度は、このように無礼なお呼び出しをして誠に申し訳ございません」
トリシア「なかなかいい歓迎されましたな、ハハハハ」
クライブ「呼び出しねぇ…」
ティエ「凄い驚くんですけどあの呼び出し」
エルデ「申し訳ありません。…理由があるのです」
ライナ「皆さん、街の東に古い城があるのをご覧になりましたでしょうか?」
ティエ「ああ、立ち入り禁止の」
ライナ「……実はあの城は、かつてこのレパーリアが今よりも大きな街であったころ、王城として使われていたものなのです。
しかし、地盤の問題などで放棄されて以来、悪魔に占拠されております」
ティエ「悪魔…」
ジョルティ「ちゃんと管理しないから…」
ライナ「……これまでは、恥ずかしながら対抗することもできず、お互いに立ち入らないという、名目上の不可侵という契約を結んできました」
ジョルティ「人のもん盗んどいて不貞ぇ悪魔だな。よし、城ごと焼き討ちにしよう」
ライナ「もう、50年程前から、そのように。これまではそれで問題がなかったのですが…」
ライナは、どこか言い澱んでいる様子でした。バツの悪いというような表情で少しだけ目をそらします。その様子を見て、その続きをエルデが続けました。
エルデ「……私達の息子が、旅から戻り自信を付け、何人かでその悪魔の討伐に向かったのです」
エルデ「しかし…息子たちは戻ってきませんでした。いえ、正確には…首だけが、帰ってきました」
エルデも堪えるように、絞り出すように言葉を繋いでいきます。
ライナ「……結果的に、不可侵を破ってしまうこととなり、もはや我が街は安全ではありません」
ジョルティ「不可侵も無駄になったわけですな」
ライナ「悪魔たちが陽の光がある内は出歩けないため、今のように夜には戒厳令を敷き、……それでも出歩く勇気と実力がある方をここに導くために、あのようなことを」
エルデ「…お察しのことと思いますが、黒い影も、白い影も私の魔法によるものです」
ジョルティ「領地の危機に人任せですか、そりゃ相手にも舐められますわ」
ライナ「ええ、ですから基本的には街の中で力を持つものを集めようと思い、夜には門を閉じていたのですが…」
トリシア「なんかデジャヴというか…やっぱりアージェントに近い状況のような」
ライナ「力不足については、間違いありません…。レパーリアは古くは極めて栄えた街でしたが…100年ほど前に地質が変わってしまったのか、現在のように棲みにくい場所になり…、実力があるものから、街を出ていってしまったのです」
ノーティ(こんな人材の集め方では息子たちの二の舞だと思うのですが……まあそれは良いでしょう)
ジョルティ「それで、我々が協力するメリットは?」
ライナ「街の方々を集めるつもりだったので、外の方向けの報酬はあまり考えていなかったのですが…この街の住居と、永世免税権を用意するつもりでした。旅の方々であれば不要のこととは思いますが…」
クライブ「まぁ、いらんな」
ジョルティ「いらんな」
ティエ(免税…店を出すなら最高の条件のような。いや、でも最寄りがカナセじゃ人の入りは期待できないか…?)
ノーティ「そんな、もう、メリット・デメリットで動くような我々ではないでしょう?導きのままにここに来たのですから」
ジョルティ「ノーティ君、これは誠意の問題だよ」
ノーティ「それなら我々にも矜持というものがあります」
ジョルティ「俺らが一時的に助けても、その後の政が成り立たないなら意味ないんだよ。アージェントでもそうだったろ?」
ノーティ「ここで引くなら私達の旅はその程度のものになります、その後のことはその後では?」
クライブ「仮に手助けをしないとして、滅びるのが後になるか先になるかの違いだ。大した違いじゃあない」
エルデ「……どうか、息子の仇を取って下さい。私達にできることなら、何でも致します」
クライブ「…まぁ、いいだろう。俺は賛成だ。俺はな」
クライブは、どこか嗜虐的な笑みを浮かべていました。
トリシア「その間ルーちゃん放置?」
ジョルティ「ルーちゃんも、もう旅人だからなぁ。自分で決めるだろう」
ライナ「……他の報酬が必要なら、出来る限りのことをさせて頂きます。どうか、我々を、この街をお助け下さい」
トリシア「他に味方はいないのかな?」
エルデ「……私が同行致します。この街には、トライ・ブレイブを乗り越えてここに来た方はいらっしゃいませんでした」
トリシア「選民意識高いっすね」
エルデ「……あの魔法よりも、恐ろしい相手を敵とするのですから」
ジョルティ「公夫人は戦闘経験はおありで?」
エルデ「他の旅人なりには。夏の魔法は一通り扱えます」
ジョルティ「戦力として数えていいんですね?ライナ卿」
ライナ「はい。十分に戦えるかと思います」
トリシア「いつから行く感じなんだろう」
ライナ「早い内に。本当はもっと戦力を整えたいのですが…。いつ向こうから来るか分かりませんから」
ノーティ「明日が決戦でも私は戦えますよ」
ライナ「なんと…アージェントの予備騎士とは、これほどとは…」
エルデ「皆様の準備がよろしいなら、明日にでも」
そういうエルデの言葉には、節々に力が篭っていました。
ジョルティ「それなりに修羅場は潜ってますよ。請け負った以上はご安心を」
エルデ「…ありがとうございます」
トリシア「じゃー宿に戻って明日に備えますかねー」
クライブ「そうか、なら俺達は宿に戻るぞ。やるならやるで色々整える必要がある」
ライナ「それでは…明朝、東門の前で」
ジョルティ「了解した」
エルデ「……よろしくお願い致します」
ライナとエルデは、改めて深く礼をしました。
ジョルティ「で、すみませんけど、これどうやって出るんです?」
ライナ「正門をお開けしますので、そちらから」
ジョルティ「あ、そっか、裏口から帰る必要もないのか」
こうして、依頼を受けた彼らは宿へと戻りました。宿で待つルーには、明日何をするのか、黙っておくことにしたようでした。
こちらは、2016/10/22に行ったオンラインセッションのリプレイです。長らく名前だけの登場だったレパーリアを巡る、少しだけ大きな物語となりました。
アージェントの時もそうでしたが、設定を練る時間が与えられるとすぐ色々考え出すのが悪い癖です。ただ、分かりにくくなりすぎないようには注意しました。それでは、次回、後編をお待ち下さい。
【参考サイト】
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