おはようございます、竜の君。
春眠暁を覚えずと言いますが、夏になっても眠いので多分関係ないと思うんですよね。
……と、まあ世間話はこのぐらいにして。今回の旅物語は秋の竜とのお話です。秋の竜は、かなり饒舌なお方ですよね。竜の君ももうちょっとお喋りしても良いのではありませんか?
ま、私が通訳するので問題はないですけどね。それでは、今回は皆を秋の竜の元に連れて行った所からお話ししましょう。
第三十五話 第一部「七つの旅-秋/片山里の大魔導師」
ジョルティ「春の竜またねー」
ティエ「ばいばーい」
「またねーって竜の君も言ってました」
ジョルティ「まじか」
トリシア「友達かな?」
ジョルティ「意外と気さくなんすねー」
ノーティ「竜人ってかなり俗っぽいですね、当初のイメージと全然違って」
まあ完全に捏造なんですけどね?
「ホントですよホントホント」
竜の道を繋いだ向こうには、青い鱗の大きな竜が鎮座していました。どうにも眠そうに見えます。
ノーティ「道のりも何もなかったですね……いやはや、これは初めましてと言いましょうか……はい?」
ティエ「まだ旬じゃないからかな」
ジョルティ「アリアちゃんって今が旬なの?」
「ええそれはもう」
ノーティ「秋の竜の君ですよね?
初めまして、ノーティ・ユーデクスと申します」
ティエ「こんにちはー」
ジョルティ「あんだけ気さくなら礼儀作法いらないな? おっすおらジョルティ、起きてっか?」
秋の竜「……なんだ? もう戻ったの、リーズ……じゃない」
ジョルティ「こっちの竜人はおらんのか」
秋の竜「……これはこれは春の竜の旅人の方々。こんな遠方まで遥々と」
ノーティ「はるばるというほどでもないのですが。唐突で申し訳ありませんが、お尋ねしたいことがございまして」
秋の竜「ええ、竜人は今は外していましてね」
秋の竜「その前に、冬の問題を解決してくださったこと、私からもお礼を致します」
秋の竜「それで……何でしょう? 分かることならお答えしますよ」
はっと目を覚ましたように丁寧な対応をしている秋の竜でしたが、私に向けては「来るなら先に言いなさいよ」いう目をしていました。私も私で昼から寝ているなんてずるいですよ、という目を向けておきました。
ノーティ「お褒めにあずかり光栄です。……それで」
ノーティ「こちらの宝石、魔法結晶と呼ばれているらしいのですが」
ノーティ「これについて何かご存知だと夏の竜の筋から聞きまして」
ノーティの言葉に合わせて、トリシアが懐から魔法結晶を取り出して秋の竜に見せます。秋の竜はその結晶を見て、驚いたような顔をしていました。竜の表情は、人間には分からないとは思いますが……。
秋の竜「随分と懐かしいものですね、魔法結晶……。ここ何百年も見ていなかった気がしますが」
秋の竜「ええ、確かに人の魔法にもある程度は通じていますよ。魔法結晶は遥か昔に使われた魔法の形の1つでして、このように実体化させることができるのが特徴です」
秋の竜「確か結晶化させる魔法があったはずなんですけど……それは失われてしまったようですね」
ティエ(便利だなぁ MP余ったらこれにしとけばあとから使えるんだろうなぁ)
秋の竜「本来ならこうして結晶化した魔法に魔力を通せば、詠唱なく魔法が使えるというものだったんですが」
秋の竜「……その魔法結晶もそうですけど、ある程度使っていないと休眠してしまうんですよ」
秋の竜「流れていない水は腐りやすいみたいなもんですね?」
ノーティ「とすると、今はもう使えないってことでしょうか?」
秋の竜「いえ、一応それを復活させる魔法があるんですが……それが大量の魔力がある場所じゃなきゃできないものなのが問題だったみたいで」
秋の竜「次第に使われなくなって廃れていきました。」
ノーティ「それと、この結晶の元が何か大きな魔法であると聞きまして。我々人間からしてもこの宝石は不思議な色をしているように見えます」
ノーティ「一体どのような魔法が込められている……?
のか、お聞きしたくて」
秋の竜「そうですね……確かにかなり大きな魔法のように見えます。もう少し近くに見せてもらえますか?」
ノーティ「お願いします、トリシアさん」
トリシア「どぞどぞ」
トリシアがさらに秋の竜の目の前まで魔法結晶を持っていきました。トリシアの身長よりも大きな目が、その魔法結晶を見つめています。
秋の竜「……うーん、詳しい所まではわかりませんが……大量の情報が記録されている魔法のように見えますね」
秋の竜「オープン・ドラコニカのような……?それに近い気がしますが……」
秋の竜「休眠状態なので、残念ですが細かい所まではわかりませんね……」
ノーティ「気になる、とても気になります!
大量の情報と聞いただけでくらくらしそうです!」
ティエ「魔力をちまちま注いでいたらいつか発動するとかそういうことでは…ないんですよね」
秋の竜「残念ながら、一度に大きな魔力が必要なので、それは難しいですね」
ノーティ「つまり、これを起動できる魔力の場が必要になるということですね」
ティエ「やっぱりそうですよねー」
秋の竜「ええ、そういうことです。それだけの魔力の場があれば、恐らく復活も可能かと……詳しい復活のさせ方までは私も詳しくは知らないのですが……」
秋の竜「私が知る限りでは……ゼペリオン辺りなら魔力は足りそうかと思います」
ティエ(どこ?)
ノーティ「ゼペリオン?」
秋の竜「ええ、街の名前なんですけどね」
秋の竜「ゼペリオンは竜脈が通っていないにも関わらず、昔から魔力が集中する場所なんですよ」
秋の竜「なので復活の魔法をするならそのあたりが良いかな、と思うのですが」
ノーティ「魔力を多く持っている存在としてはやはり最初に思い浮かぶのは竜なのですが、珍しいですね」
秋の竜「確かに私達は魔力を多く持っている……というか元々魔力の根源みたいなものなんですけど」
秋の竜「私達の力は、基本的に季節や地形、天候のために使っていますから。自由になるものはあんまりないんです」
秋の竜「自由にすると、それこそ冬が長くなったり、秋がなくなったりしますよ」
ノーティ「というと、人の手やアーティファクトの類が魔力を生み出していたりするのでしょうか……」
ノーティ「ゼペリオンという土地に魔力が集中している理由について知りたいような、知りたくないような……」
秋の竜「そこまでは……ゼペリオンの旅物語を聞いたのも大分前のことですからねぇ」
秋の竜「今の状況までは分からないんですよ」
トリシア「行ったら街なくなってるってオチとか」
秋の竜「なきにしもあらず」
秋の竜「でもちょうどいいですね、ちょうどリーズ……私の竜人も、今そのあたりにいるので」
ノーティ「竜人がいらっしゃるということは、当然旅人も」
秋の竜「ええ、そういうことです」
秋の竜「皆さんに比べると小さな力ですが、全く役に立たないわけではないと思いますよ」
トリシア「その旅人とか竜人のお名前聞いても?」
秋の竜「竜人の名前はリーズといいます」
その時、ジョルティが突然なにか嫌な予感がしたかのようにマントを羽織って隠れ始めました。
〈隠密〉
ジョルティ:15
秋の竜「旅人は、ニーナとクレールですね」
トリシア「あっ…聞き覚えがある名前だけどジョルティおぼえてる?」
〈発見〉
秋の竜:31
秋の竜「何してるんです?」
ジョルティ「ミナイデ」
秋の竜「あ、もしかして貴方がジョルティさんですね?」
ジョルティ「そうです私がジョルティさんです」
秋の竜「フフフ、旅物語で話は聞いてますからねー」
ジョルティ「あー、俺の名声も竜界隈にまで轟いちまったかよぉー! かーっ!!」
トリシア「悪名じゃないの」
秋の竜「クレールはもうそんなに気にしていないようですから、そんなに気にする必要はないですよ」
秋の竜「まあ、リーズが怒ってるのでそっちは気にした方がいいですけど」
トリシア「どんまい」
ジョルティ「ところで秋の竜は食べられるタイプの竜ですか?」
ジョルティは明らかに話題を逸らそうとしてとんでもないことを言い出しました。
秋の竜「食べられないタイプの竜ですよ」
ジョルティ「或いは食べられるタイプの竜をご存知ですか?」
秋の竜「ご存知ないタイプの竜ですよ?」
秋の竜「それ、竜に聞きます? 食べられるタイプの人間教えてくれます、って聞いても答えないでしょー?」
ジョルティ「そっかーモチはモチ屋っていうじゃないですか」
秋の竜「それそういう意味でしたっけ?」
ジョルティ「トリシアとかどうです? パワーさんは硬いからたぶん美味しくないっす」
秋の竜「まあ女性の方が美味しそうではありますけどね」
パワー「草食べてるからいい匂いがするぞ」
秋の竜「あれ、何の話でしたっけ?」
ノーティ「ええっと、何でしたかね……」
秋の竜「あ、そうそう、ゼペリオンでしたね」
秋の竜「ゼペリオンは直接竜脈がつながっていないので……行くなら北隣のリーディスか、西隣のクレインからですかね。こっちまでなら、竜の道をお繋ぎしますよ」
ノーティ「そうですよね、直接向かえないってことですよね…参りますね」
秋の竜「歩き慣れてらっしゃるでしょう?」
ノーティ「できれば慣れたくないものでしたが」
ティエ「名産とか特産とか名物とか教えて貰えるとたすかるんですけど」
秋の竜「あー……うーん、どうでしたかね」
秋の竜「リーディスは博物館が有名だったはずですけど……特産品は分かりませんねぇ」
秋の竜「クレインの方は、なんだか凄い魔法使いの方がいらっしゃるとか、そんな話を聞いたことがありますけど……小さな村なので真偽の程はわかりませんね」
ノーティ「人間の世俗にも通じていらっしゃる。私はそのなんだか凄い魔法使いという人物が気になるところですが」
ノーティ「小さな村にそれほどの人物がいるとも思えません。どうにも胡散臭いですね」
ノーティ「胡散臭いのもまた嫌いではありませんが」
秋の竜「そうですねぇ。私も伝え聞きですからね、どうしても詳しい所までは」
秋の竜「季節の竜は竜人を通して見る世界ぐらいしか、楽しみがありませんから。こうして直接旅人と話ができる機会は貴重なんですよ。ここまで辿り着く人は、そうそういませんからね」
秋の竜「どちらかに行くようなら、道をお繋ぎしますよ。ここから歩いて行く、というのならそれはそれで止めませんけれども」
ノーティ「そうですね、パーティの皆さんのご意見を賜れればと思うのですが」
クライブ「めんどくさいから任せた」
ティエ「一旦両方連れてって貰えばいつでも行けるようになるのでは」
ノーティ「絶対どっちも気になってしまうのですから、どちらかにしましょうよ」
ノーティ「私はその小さな村、クレインに興味を惹かれます」
秋の竜「選択するのも、旅の醍醐味ですよ。数々の選択の果てが旅になるんですから」
ティエ「そっかー」
ジョルティ「近い方がええな」
秋の竜「直線距離ならクレインの方が近いですね」
パワー「草が生えてる方」
秋の竜「草はどっちも生えてますよ」
パワー「あ、どこにでも生えてたわ」
ノーティ「ま、まあ、整備されていない方が草は多いのではないでしょうか」
ティエ「じゃあクレインにしますかー」
ノーティ「では、とりあえず! いざクレインへ」
ノーティ「お願いします、秋の竜の君」
秋の竜「クレインで宜しいですか?」
ジョルティ「よろしいです」
秋の竜「宜しいようなら、お繋ぎしましょう。クレインの……まあ、すぐ近くの雑木林辺りに飛ばしておきますね」
秋の竜「やはり竜の旅人同士は惹かれ合うのかもしれませんね。ふふ」
ノーティ「?」
秋の竜は意味ありげに微笑むと、こちらの旅人が何かを聞き返す前にクレインに向けて竜の道を繋ぎ、彼らを飛ばしました。言っていたとおり村近くの雑木林に降りたようです。
クレインは話の通り小さな村のようで、見た限りあまり多くの家もありません。東の方角には、高い山が見えました。中ほどから上は雲がかかっているため見えません。
ノーティ「送ってもらって何ですが、なにもないですね。もう慣れましたが」
ノーティ「とりあえず、村長に会えるかどうかですね」
ノーティ「村の人々に聞いて回っても魔法使いと自称する人には会えそうですが」
村長の家は他の家よりも大きいため、これまでの村巡りの経験からひと目で見分けがつきました。
ノーティ「あそこに村長がいるでしょう、如何にもという建物がありますね」
ティエ「じゃあダイレクト村長家?」
ノーティ「挨拶はジョルティさんにおまかせしますね」
皆はまっすぐその村長の家と思しき邸宅へと向かいます。コンコンとノックをすると、村長然とした男性が応対してくれました。
〈礼儀作法:対抗〉
ジョルティ:19
村長:10
ジョルティ「突然失礼致します。伺いたいことがあるのですが」
村長「おやおや、旅人の方ですかな? これはお珍しい」
ノーティ「珍しいというと、ここに旅人が来るのは久しぶりということになりますか?」
村長「いえいえ、その逆でございます。こんなに続けて旅人が来なさるのが珍しい、という意味ですよ」
ティエ「続けて…?」
村長「ちょうど一昨日辺りにも旅人の方がいらっしゃいまして。その方々はまだ滞在しているかと思いますよ」
ノーティ「つまりその旅人というのは、女性2人組ですね? まだこちらに?」
村長「いえ、3人組だったような……?」
トリシア「ストーカーかな?」
村長「ええ、村の宿にはいらっしゃると思いますよ」
ノーティ「お聞きしたいのはそれだけではなくてですね。こちらに大魔法使いの方がいらっしゃると聞いたのですが」
村長「大魔法使い……?」
村長「ああー……彼のことですかね……?」
ノーティが大魔法使いのことを話題にだすと、村長は明らかに訝しげな表情になりました。
ノーティ(やはりそういう反応ですか)
村長「村の端の方にあばら屋があるんですが……そこに住んでいる老人が大魔法使いを自称していますが……」
村長「その、あんまり信用なさらない方が良いかと思いますよ。村の者もまあ、腫れ物に触るような感じでして」
村長「ブツブツと魔法陣がなんだとか、そんな話ばっかりをしていて、よく分からん人なんです」
ノーティ「こう言っては何ですが、本物の大魔法使いなら、その、このような村にいらっしゃることはないと思っていたので」
ノーティ「あまり信用はしていません。ご心配なく」
村長「まあ、そうですねぇ。こんな小さな村ですから」
ジョルティ「おま、村長に向かってお前」
村長「長閑な暮らしぐらいが取り柄ですからね」
ノーティ「ついでに、何かお困りのことがあれ……ば……」
ノーティ(と思いましたが、今頼まれ事をしても困りますね)
ノーティ「いえ、すみません、なんでもありません」
村長「? よく分かりませんが、皆様もごゆっくり。何もない村ではありますが」
ノーティ「はい、ありがとうございます」
こうして一通り話を聞き、皆村長の家を後にしました。
ノーティ「村の端に住んでいらっしゃるということですが……ぼろぼろの家を探せば良いのでしょうか?」
ノーティが村の中をキョロキョロと見渡します。村長の言っていた村の外れのあばら屋は、特に探すことなく見つけられました。確かに言うとおりボロボロで、不自然なほど村の端にありました。
トリシア「こんこんこんここんこんこ」
ノーティ「どうにも声をかけづらい雰囲気ではありますが。どなたかいらっしゃいますか」
トリシア「コンコンコンコンコンンココンコンココン」
何故だかトリシアがノリノリでノックをしています。すると、返事がないまま突然ドアが開きました。
ワンルームの奥のロックチェアに老人が座っており、ドアの近くには誰もいません。
トリシア「おじゃましてよいですか」
老人「用があるならな」
トリシア「あーあったかなあ」
ノーティ「あ、まあ、大魔法使いがこの村にいらっしゃると聞きまして」
トリシア「ききました!」
老人「ほう……」
トリシア「あなたでしょうか!」
老人「儂のことを魔法使いとして訪ねてきた者はいつ以来かな」
老人「大魔法使いは人の呼ぶ名だが、いかにも。我が名は魔導師ヴィルフランシュ・D・リコンストラード」
ノーティ(うわっ)
トリシア(めんどくさそうな人だ…!)
名前が長いので私は以後ヴィルフランシュと呼ぶことにしますね。
老人「魔法の知恵を必要とするならば入るが良い。そうでないならば、話すことはない」
ノーティ「それでですね、そうですね……」
ノーティはそう言うと、懐から綺麗な石を取り出しヴィルフランシュと名乗る老人の前に見せました。これは先程ノーティが拾っていたもので、あの魔法結晶ではありません。
その様子を見てトリシアが何やってんの? という顔で見ていました。
ノーティ「この宝石なのですが、魔法結晶という名前に聞き覚えは?」
ヴィルフランシュ「……それが魔法結晶か?」
ノーティ「……ええ、何かご存知で?」」
ヴィルフランシュ「何の魔力も感じられないがな……」
ノーティ「なるほど……(魔法使いであることは確かなようですね)」
トリシア「そもそも魔法結晶ってなんなんですか大魔術師のじーちゃん!」
ヴィルフランシュ「魔法結晶は結晶化魔法によって結晶化した魔法。……ややこしいが、形を持つ魔法のことである」
ノーティ「大量の魔力を注ぎ込まないとアクティベートしないようなのです。それでお力をお借りできればと……」
ヴィルフランシュ「ふむ……私以外にそのような魔法のことを知っている者がいるとはな」
ヴィルフランシュ「確かにその通りである。一度鼓動を止めた魔法結晶は十全たる魔力を注ぎ直さなければ使用できん」
ヴィルフランシュ「……魔法結晶を持っているのか? 今のところ、石ころしか見せてもらっておらんが」
ヴィルフランシュ「持っていないなら、知っても仕方がないぞ。殆ど現存しない」
ノーティ「そこまでご存知でいらっしゃるとは……申し訳ありません。確かにこちらはただの石です」
トリシア「ただの石だったのか…何してるのかと…おじーちゃんごめんね?」
トリシア「おちょくってるわけではないと・・・思いたいんだけども」
ヴィルフランシュ「構わん。私のことを疑わない者はなかった」
トリシア「まあ本物はこれなんだけども」
今度はトリシアが懐から、本物の魔法結晶を取り出してヴィルフランシュに見せました。
ノーティ「こちらに本物が」
ヴィルフランシュ「……ふむ、確かに魔法結晶のようだ」
ヴィルフランシュ「……よく見せてもらっても良いかね」
トリシア「見るだけだよー」
トリシアが魔法結晶をヴィルフランシュに手渡します。ヴィルフランシュはそれを手にとって、回すようにしていろいろな方向から観察し始めました。
ヴィルフランシュ「……なるほど、これは確かに……」
ヴィルフランシュ「なんと見事な魔法結晶。儂もこれほどのものを見たことはない」
トリシア「変なモンスター解体したらでてきました」
ヴィルフランシュ「……モンスターが持っていたのか。ふむ……」
ヴィルフランシュ「確かに休眠状態の魔法結晶のようだ。それも、よほどの大魔法と見える」
ヴィルフランシュは観察を終えて魔法結晶をトリシアに返しました。受け取ったトリシアは再びそれを懐にしまいます。
ノーティ「ええ、魔法の正体も探っておりまして。起動してみないと分からないものかと」
トリシア「大体魔法結晶ってどんな大魔法とかだったりするのです?」
ヴィルフランシュ「明確な傾向があるわけではないが……」
ヴィルフランシュ「普通の魔法なら、魔法使いはそのまま詠唱すれば良いからな、結晶化する必要がない」
トリシア「ですよね」
ヴィルフランシュ「大抵の場合、再現が面倒なものや、準備の面倒なものが結晶化されている」
ヴィルフランシュ「得てしてそういったものが記録されているな。概ね大魔法になるのはそういう理由だ」
ティエ「現代魔法でいうところの儀式魔法とかポーンと使えるようになる…?」
ヴィルフランシュ「そうだな、もちろん魔力は消費することになるが、そういうことも可能だった」
ティエ(リンリラックスオーケストラ結晶化したらスゴイ便利なんじゃ…)
ヴィルフランシュ「だが、まさにこの休眠状態になるという欠点のせいで廃れてしまってな、今では結晶化の魔法は残っていない」
ティエ「残念…」
ヴィルフランシュ「例えばそうだな……大魔法を記録した所で、3日に1度使わなければ休眠してしまうのでは、かえって非効率だろう?魔力は食うのだからな」
トリシア「廃れるってことはそこまで頻度が高い魔法はなかったってことですかね?」
ヴィルフランシュ「ああ。先程も述べたとおり、大抵は大魔法に使われるもので……その大魔法はそれほど頻繁に使われるものではなかったからな。相性が悪かった」
トリシア「レア物ってよりかはネタモノなのかな…」
ヴィルフランシュ「便利なのもであることは間違いなかったのだがな」
ノーティ「魔法結晶というものは人工物で、かつて魔法の詠唱を簡略化するために作られたものであると。とても重要な手がかりをたくさん頂いておりますが……」
ヴィルフランシュ「……なるほど、少し話が見えたぞ。結晶魔法のことを知っていて、そのことを訪ねに来たということは……ゼペリオンを目指して来たのだな?」
ノーティ「ええ、確かに」
トリシア「大量に魔力が集まって使って見るならそこなんじゃないかなって誰からか忘れたたけど聞いてきました」
ノーティ「その過程で、こちらに大魔法使いがいらっしゃるという噂を聞いて来たのです」
ヴィルフランシュ「その者にも聞いてみたいものだ。私以外に、結晶魔法を知る者……」
トリシア「誰だったかなー思い出せないなー」
トリシアはなんだかんだで竜のことは黙っていてくれているようです。ものすごい棒読みなのは気になりますが。
ノーティ「しかし、ここまで博識の、それこそ本物の大魔法使いとお見受けされるお方が、どうしてこのような小さな村に?」
ヴィルフランシュ「……魔法使いは大都市にいるより小さい村にいる方がそれっぽいのとは思わんか?」
ノーティ「え?」
ヴィルフランシュ「まあこれは冗談だが……」
ヴィルフランシュ「まあ私がここにいるのもゼペリオン絡みだ。魔力が得やすく、研究に向いている」
トリシア「そんなにいい土地なら他にも結構な魔法使いが集まりそうな気がしますが」
ヴィルフランシュ「ゼペリオンが良い魔力のたまり場であるということが分かるような魔法使いがそうそうおらんのだ」
ヴィルフランシュはそう言いながら、軽く笑ってみせました。
ノーティ「そうですね、そのことについても少しお尋ねできれば。ゼペリオンは何を魔力源にしているのでしょうか?」
ヴィルフランシュ「ゼペリオンは魔力源ではない。先に言ったが、魔力のたまり場だ。世界にある魔法が集まりやすくなっている窪地のようなもの」
ノーティ「それと。単刀直入に言って、どれだけ竜のことをご存知で?」
ヴィルフランシュ「竜……? 竜自身についてはそれほど詳しいわけではないな……」
ジョルティ「じっちゃん、ゼペリオンでこの結晶起動出来るか試したいんだけど、何か良い方法知らない?」
ヴィルフランシュ「結晶の再生の方法か……」
ヴィルフランシュ「本来ならば膨大な見返りを求めるところだが……」
ヴィルフランシュ「良いだろう、私に話を聞きに来たという慧眼に敬意を表し、その方法を教えよう」
パワー(あ、こいつちょろい)
ヴィルフランシュ「一度しか言わんからな、書き留めておけよ」
ティエ「はい、メモの準備はOKです」
ヴィルフランシュ「まずは、強き魔力の集う地を探せ。ゼペリオンは大きな街だ、その中でも最も強い魔力が集う場所を探すことだ」
ヴィルフランシュ「そうしたら、まずその中央に〈複製の魔法陣〉を書くのだ。そして、それに重ねるように、〈伝達の魔法陣〉を書け。この2つの魔法陣には一部重なる部分がある、その部分を目印にして重ねるのだ」
ヴィルフランシュ「その上で、それぞれ対応する方角に季節の美しさを示す魔法陣を描き、その中央にその季節の魔法を扱えるものが立て」
ヴィルフランシュ「そして、この結晶を持った者が、複製と伝達の魔法陣の中央に立つ。……あとは、皆で同時に自分の魔法陣の魔法を詠唱しろ」
ヴィルフランシュ「中央に立つものは複製の魔法だけで良い。四季の美しき景色が魔を司る存在に伝わり、その力を蘇らせるであろう」
ヴィルフランシュ「詠唱はどれも形式的なものだ。魔法が効果を齎すわけではないし、詠唱者の魔力も消耗しない」
ジョルティ「難しいのでもっと簡単になりませんか?」
ヴィルフランシュ「ならん。魔法というのはその工程の長さがそのまま強さに繋がるものだ」
ヴィルフランシュ「瞬間魔法より儀式魔法の方が強力なのも、似たようなものだ」
パワー「お湯をかけて3分で出来上がりとかにならんの」
ヴィルフランシュ「魔法を何だと思っているんだ?」
クライブ「めんどくせえ構造だな」
ノーティ「つまり、各季節魔法が使える人物も必要になるということですか?」
ヴィルフランシュ「ああ、四季の魔法使いが必要だ」
ティエ「夏魔法使いがいないんですよねえ」
ジョルティ「じいさん、もし暇なら手伝ってくんない?」
ヴィルフランシュ「残念だが、足腰がもう弱っていてな」
ヴィルフランシュ「ゼペリオンは高山の上にある都市だ、今の儂の足では登れないだろう」
ジョルティ「魔法でなんとかならんのかいね。大魔法使いだろ!!」
パワー「いい養老教会紹介しようか」
ヴィルフランシュ「魔法は万能なものではないからな……それをできる限りできるようにするようにするのが、魔法の研究だ」
ノーティ「困りましたね。夏の魔法使いと、肝心の中央で呪文を唱える魔法使い、2人も足りませんね」
ヴィルフランシュ「……聞きたいことはもう良いかね?」
クライブ「魔法を使わない俺のような者にも魔力があるようだが、何かに役立つのか?」
ヴィルフランシュ「集中力を使う場面は色々とあるだろう? その代償になる」
ティエ「結晶化魔法を覚えたいんですけどなんとかなりそうな場所とかないですか?」
ヴィルフランシュ「結晶化魔法は廃れている。習得をすることは諦めた方が良いだろう。大昔に戻れるというなら話は別だが」
ティエ「結晶は他人が使っても良いんだったらMP余ってるひとに使ってもらえるなら瞬間魔法とか結晶化しといたらえらい便利だろうになあ…何故廃れた…」
トリシア「結果面倒くさいからだよね」
パワー「筋肉を使った魔法はありませんか」
ヴィルフランシュ「筋肉……? こいつは何を言っているんだ?」
ノーティ「そういう人なんです」
パワー「ないの?」
ヴィルフランシュ「ない」
ジョルティ「聞いてほしそうだから聴くけど、じいちゃん何の魔法研究して大魔法使いになったの?」
ヴィルフランシュ「聞いて欲しい……と言うつもりは全く無かったのだが……。研究しているのは……暮らしを豊かにするための魔法だ。自分で言うのは恥ずかしいがな」
ヴィルフランシュ「魔法をもっと身近なものにし、生活に取り入れる事ができるようになれば……もっと便利に生活ができるようになるだろう。……そんなところだ」
ノーティ「恥ずかしいだなんて。とても志の高い、魔法使いのあるべき姿のように思います」
ヴィルフランシュ「……そう言ってもらえれば有り難いがな」
ティエ「それこそ結晶化魔法の遣い処なのでは」
ヴィルフランシュ「結晶魔法は私の作ったものではないからな……そう言われても困るが……」
ジョルティ「ついでに何か凄い魔法とか教えて下さい。習得したいです」
ジョルティ「どうやったらノーティが右からシューティング・スター、左手からスノーボール・ストーム同時に出せるようになりますか?」
ヴィルフランシュ「複合魔法は高度な魔法理解が必要である。同時に2つの魔法を使用するということは詠唱の問題からしても不可能だ。それこそ、魔法結晶を2つ同時に使用するぐらいしか方法はない」
ティエ「カコに戻る魔法とかないもんですかねえ……ぶつぶつ」
ヴィルフランシュ「……」
ノーティ「ええ。不躾に突然押しかけて申し訳ありませんでした。何かお返しできればよいのですが……」
ヴィルフランシュ「久しぶりに魔法の話ができただけで十分」
トリシア「そういえば、東の方に魔法結晶みたいなのに頼りまくりの街がありましたよ」
トリシア「ある意味身近。お風呂のお湯とか料理の火とかが魔法化されてたよ」
ヴィルフランシュ「……ほう。そんな土地もあったのだな」
トリシア「東の果の海沿いの街でした」
ヴィルフランシュ「……ああ、フリーグゼルのことか? そんな場所のことも知っているとは、随分な長旅を経てきた旅人だったのだな、君達は」
トリシア「ご存知で」
ヴィルフランシュ「昔に少しな」
ティエ(さっきまでいたとは言えない)
トリシア(ものの数時間前までいたね)
ノーティ「ありがとうございました。しばらくしたらゼペリオンに発つつもりです。貴方の名誉を我々以外に伝える術がないのが心惜しいですが、どうかお元気で」
ヴィルフランシュ「……ゼペリオンに行くならば、一つだけ忠告しておこう」
ヴィルフランシュ「陽の光には気を付けろ」
ノーティ「はい……?」
トリシア「???」
ヴィルフランシュ「春の日差しも、集まれば強い光となる。……行けば分かる。十分注意していれば、君達程の旅人なら大丈夫だろう」
ヴィルフランシュ「健闘を祈る」
ティエ「熱さ対策はしっかりしていこう…」
ノーティ「了解です。失礼しました」
そういうと、ヴィルフランシュはロックチェアに身を委ねるようにして眠りはじめてしまいました。
こうして、皆はヴィルフランシュのあばら屋を後にしました。全員が出ると、ひとりでにドアが閉まり、鍵が掛かった音がしました。
ノーティ「本当に実力のある魔法使いだとは……」
トリシア「さて宿探すか野宿でもするか」
トリシア「とりあえず宿探してみるかい? 今日は移動しないでしょ」
ノーティ「あの秋の旅人のお二方が使える季節魔法は何でしたっけ?
あまり接点がなかったので覚えていないのですが」
ノーティ「外で話も何ですし、そうですね、宿を取りますか」
クレインの村は宿が一つしかないようでした。民宿のような、規模の小さいお宿です。皆が個室を取るためにカウンターに近づき、受付の方と話していると、後ろから女性が声を掛けてきました。
女性「おや……?」
トリシア「おやや?」
パワー「こっちみてんじゃねぇぞ」
女性「おやや? やっぱりそうですよね?」
すっと後ろに振り返ると、そこには驚いた表情のニーナさんがいました。その後ろに、クレールさんと、青い髪の女性も立っています。
トリシア「まあいるのは知ってたといえば知ってたんだけどね」
ニーナ「おや?そうだったんですか?」
ニーナ「あれ? フリーグゼルの方にいると聞いていたのですが……いつのまにこちらに?」
トリシア「それはおいといて。いるのはさっきなんとなく聞いてた」
ジョルティ「誰?トリシアの知り合い?」
ジョルティは見るからに誤魔化している様子でしたが……。
クライブ「われわれはどこにでもいてどこにもいない」
トリシア「ジョルティもお知り合いだと思うよ」
トリシア「おひさしぶりのようなお久しぶりじゃないような」
トリシア「おはこんばんちは」
ジョルティ「コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨コ¨」
クレール「……やはり旅人同士は縁があるんですかねぇ?」
クレール「お久しぶりですね。皆さん」
クレールさんはどこか薄っすらと笑みを浮かべていました。リーテ以来ですね。
ノーティ「ええ、竜のご縁ですね。こんにちは」
トリシア「そちらの方もお仲間でー?」
〈ジョルティ:春魔法「スプラウト」→自身の敏捷〉
発動判定:9
〈礼儀作法:対抗〉
ジョルティ:26
青い髪の女性:ブレス・フォーチュンにより自動成功
ジョルティ「二人共お久しぶりだねっ!! おや?後ろの女性はどなたかな?」
トリシア「どんまい」
青い髪の女性「……これは、どうも、ご丁寧に」
ティエ(なんか光った…ような…?ねえ なんかいま光りませんでした?)
青い髪の女性「はじめまして、リーズと申します。秋の竜人です」
ノーティ(あちゃあ)
ジョルティ「初めまして、ジョルティと申します」
トリシア「いきなり竜人カミングアウトしてきますかー」
ジョルティ「殺気が凄い」
トリシア「流石っすね」
リーズ「はい、こうしてお話するのははじめてですね、ジョルティさん?」
ジョルティ「そ、そうっすね…」
リーズ「まあ、色々とお話ししたいことはありますが、竜人の立場ですから、ここは止めておきましょう」
リーズ(意訳:二度目はないぞ)
ジョルティ「圧で吐きそう」
トリシア「まあ、そのなんだ。ジョルティあとで美味しいご飯たべよう」
ジョルティ「うっす」
リーズ「……おっと、それはそうと。冬の件は皆様が解決してくださったということで。それについては厚くお礼を申し上げます」
トリシア「あっはいぃ…」
リーズ「冬が長引くと秋の竜がすぐサボるので、助かりました」
トリシア「いやいや、秋の竜にもたすけられたりしてるのでお互い様ですよぉハハハ」
ジョルティ「心入れ替えたんで、うす」
リーズ「……それにしても、秋の竜も皆さんがいらっしゃるなら教えてくれれば良いですのに。急だったのでびっくりしてしまいました」
トリシア「か、帰ったほうがいいですかね?」
リーズ「いえいえ、そんなことは全く。竜の旅人同士、仲良くしてくださいね」
ニーナ「??? なんです?この雰囲気?」
トリシア「にーなちゃんはそのままでいて」
ニーナ「は、はい?」
トリシア「かわらないきみでいて」
ニーナ「はあ…」
ノーティ「どうして……というのも変ですが、こちらにいらっしゃるのは何か目的が?」
ニーナ「あ、それはですねー……と、ロビーで話すのもなんですね。部屋を取っているので、みなさんも部屋をお取りになったら来てくださいますか?」
トリシア「お取りになりますか? 他所行きますか?」
ノーティ「え? いや、ここで……」
トリシア「えぇ…」
ノーティ「少し寝心地が悪いとは思われますが、堪えて頂けると。他に宿もないようですし」
トリシア(うそでしょ…まじかこのノリと空気でここのいるの…居心地も悪いよう…)
ニーナ「じゃあ、お待ちしていますね?」
トリシア「お疲れでしょうし待たなくても…」
クレール「では、また後ほど。お茶でもお入れしてお待ちしておりますので」
そう言って、3人は自分でとった部屋の方へと向かっていきました。リーズさんがその時に私の方に向かって会釈をしたので、私も返しておきました。
ノーティ「あの、7人泊まりたいのですが。個室があればそちらで」
トリシア「おさいふのでばんだよお」
宿の主人「6人のように見えますが…もう一人後でいらっしゃるのですか?」
ノーティ「6人でした。ルー君はもういないのでしたね」
宿の主人「ええ、大丈夫ですよ。ピッタリ6部屋開きがあります」
ノーティ「ありがとうございます」
宿の主人「ご夕食はどうなさいますか? ご用意することもできますが」
ジョルティ「美味しいやつで」
宿の主人「ある程度腕に覚えがありますよ!」
ジョルティ「ならお願いします!」
宿の主人「では、二階がそのまま6部屋ありますので。ご自由にお使いください」
宿の主人が皆に鍵を渡しました。
トリシア「ワタシツカレタカラゴハンタベテネテイイカナー?」
ノーティ「え、お待たせするのもなあ、と思って……」
トリシア「ドウゾドウゾ」
トリシア「オ三人ニハヨロシクイッテオイテクダサイ」
結局トリシアは女の勘で嫌な予感がしたのか、3人の部屋には行かないことにしたようです。自分の部屋に向かうと、すぐにベランダで一服を始めていました。
ノーティ「ジョルティさんもいらっしゃるんですね?」
ジョルティ「行かないと殺されそうなんで」
トリシア以外の5人はぞろぞろと一階の3人の部屋へと向かいました。こちらは大部屋のようで、同じ部屋を取っているようです。
ニーナ「あ、いらっしゃいませー」
ティエ「こんばんはー」
ジョルティ「うっす!リーズの姉御、入ってもよろしいでしょうか!!」
リーズ「ええ、どうぞ。2人が呼んだのですから、私が口を出す事はありませんよ」
ジョルティ「うっす!!失礼しやっす!!」
クレール「はい、お茶です。ハルシャ菊ですので、苦手な方はお気を付けてくださいね」
そう言ってクレールさんは、用意してくれていたらしいお茶をに出してくれました。リーズさんから私のことを聞いていたのか、私の分も用意してありました。
……トリシアが来なかったことで一杯余った分も私の前に置いてありましたが。
ニーナ「苦甘い味が好きなんですよねぇ」
ティエ(うちには生で食べる人もいますから大丈夫です)
ティエ「ワーイオチャダー」
ノーティ「ある意味中毒と言うか、与えてはいけない気もしますが……ええ、それでお話の続きをば」
ニーナ「私達がここにいる理由、でしたっけ」
ノーティ「ええ、我々も用事があって来たわけですが、そちらもお聞きしたいと思いまして」
ニーナ「ここの東に、高い山があるのは見ましたか?」
ノーティ「ええ、まあ、見ましたが……、それが?」
ニーナ「その山の上にですね、ゼペリオンという街があるらしいんですよ」
ニーナ「この前クローナ・ディアの図書館で、調べたらですね、どうもあのゼペリオンという街に月光石という石があるらしいんです」
ニーナ「その月光石というのが……あの、ゴレンで皆さんに譲って頂いた、共明石とよく似た性質があるようで」
ニーナ「もしかすると、関係があるのではないかと思って、調べに来たんですよ」
クレール「皆さんが見つけてくださったという共明石の何倍も大きなものらしく……あの大きさのものでさえかなり貴重なものらしいので」
クレール「もしかすると……私達の故郷にあったという共明石と関係が有るのではないかと思って」
クレール「……あの、それで」
クレール「皆さんはどうしてここに? というより……どうやってここに?」
クレール「フリーグゼルに……いたんですよね? 東の果ての……」
ノーティ「どうやって?
それは……そこのリーズさんが我々のしたことを知っているのと同じような理由ですよ」
リーズ「……まあ、そのことは気にしないでいいと思いますよ、クレール。色々あるのです」
ノーティ「色々あるのでございます」
ノーティ「それで、どうしてという話ですが……とある魔法の宝石を起動するのに強大な魔力が必要になりまして、それでゼペリオンの名前が挙がったと」
ニーナ「あれ、皆さんもゼペリオンが目的地なんですね!」
ノーティ「そうなのです。もっとも、この周辺で何か行きたいところがあるとすれば、そこくらいしかないでしょうが」
ニーナ「そうですねぇ、確かにあまり何かある場所ではありませんから」
ニーナ「これも何かの縁です、ご一緒しませんか?」
ニーナ「高山の上にあると言いますし、私達だけでは不安もあるので」
ノーティ「ええ、もちろん。それと……魔法使いを探していまして」
ニーナ「ほう、魔法使いですか?」
ノーティ「夏の魔法使いを含む、二人の魔法使いが必要なのです。我々も魔法使いを擁していますが、その宝石を起動する儀式にはまだ必要でして」
ニーナ「ふむふむ……それなら尚更丁度良いですね!」
ニーナ「私は秋と冬、クレールは春と夏の魔法が使えますよ!」
ノーティ「おお、それは何とも。協力して頂けると助かります!」
ニーナ「私は良いですが、クレールも良いですか?」
クレール「ええ、ニーナが良いなら、もちろん。お手伝いしますよ。」
トントン拍子に話が進んでいく合間に、リーズさんがこちらの方に目配せをして、「日記も一緒に書けそうですね」と言ってくれました。
「そうですね、リーズさん。なかなかない機会です」
と、その場では返しておきました。……結局、忙しくて個別に書くことになってしまったのは残念です。
ノーティ「有り難いです。我々もあなた方の目的の為、できることなら協力させていただきますよ」
ニーナ「それは願ってもないことです! ありがとうございます!」
ニーナ「いつ、出発されますか?」
ニーナ「宿を取っているので、今日は発たないかと思いますが……」
ノーティ「そうですね。この土地での目的は果たしたので、明日以降ならすぐにでもというところですが」
ニーナ「では、明日の朝にロビーで待ち合わせということで!」
ノーティ「はい、よろしくお願いします。それでは、ごゆっくり」
クレール「ええ、ではまた明日。皆さんもごゆっくり」
こうして皆は3人の部屋を後にしました。リーズさんも小さく礼をして送り出してくれたので、私も小さく手を振り返しておきました。
それからティエが皆の部屋にミノーン・ビバークを掛けに行き、その時に部屋に残っていたトリシアに明日出発の旨を伝えます。
トリシア「あっティエくんどんな話だったー」
ティエ「かくかくしかじか」
トリシア「えぇ…まじっすか…」
ティエ「何か問題がー?」
トリシア「オトナニナッタラワカルヨ」
ティエ「へー」
こうして、トリシアは何か女の勘でビクビクしているようでしたが、そこそこ美味しい料理を食べて皆早めに床につきました。
~春の月 30日~
ああ……もう春が終わってしまいます……。今日は暑いでも寒いでもなく、そこそこ過ごしやすそうな天気でした。
〈コンディションチェック〉
パワー:10(絶好調)
クライブ:16(絶好調)
ティエ:15(絶好調)
ノーティ:9
トリシア:17(絶好調)
ジョルティ:9
ニーナ:7
クレール:12(絶好調)
リーズ:11(絶好調)
〈春の竜の加護〉
ジョルティ:13(絶好調)
皆各々で朝の準備を済ませてロビーへ向かうと、3人が待っていました。すでに旅支度が済んでいるようです。
ノーティ「おはようございます」
トリシア「オハヨウゴザイマス」
ニーナ「おはようございます!」
ティエ「オザマース」
ジョルティ「ニーナちゃんおはよう、今日も元気だね」
ニーナ「ええ、元気が取り柄です!」
トリシア「アレー疲れ取れてないナーもう一回寝とこうカナー」
ニーナ「おやおや? 大丈夫ですか?」
トリシア「大丈夫カナー」
ニーナ「トリシアさんはちょっと体調悪いみたいですが……いけますか?」
トリシア「ゆっくり付いていくヨー」
ノーティ「ここだけの話、痔を患ってまして」
トリシア「えっ」
ノーティ「冗談です」
トリシア「なにこのひとセクハラ?」
クレール「女性に言う冗談じゃないですよー」
トリシア「デリカシー無いよネー」
クレール「さて……出発しますか?」
ノーティ「行きましょう、おかしいなあ……『死ぬまでに言いたい1001の冗句』に紹介されていたのに……」
ティエ「いきましょー」
トリシア「シュッパーツ」
ニーナ「進行ー!」
こうして、皆は村で食料と動物の餌を買い込み、クレインの村を発ちました。ティエはそのついでで耐火マントも買っていたようです。
第三十五話 第一部「片山里の大魔導師」 完
こちらは、2017/2/17に行ったオンラインセッションのリプレイです。
今回は秋の竜と、田舎の自称大魔法使いとの会話だけという、動きの無いパートになりました。
次回はまた旅歩き、多少は動きがあるお話になっております。
【参考サイト】
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