ふう、やっと今回の話がまとまりましたよ、竜の君。ちょっと予想外のことがあって分量がかなり多くなってしまったので、まとめるのに時間が掛かってしまいました。
今回の話は凄いですよ、なんだかもう、私自身何だかよく分かってないぐらいです。……いや、竜人としてどうなの?
ってそんな真顔で言わないでくれません? 仕方ないんですよ。
ともかく!
始めますよ、今回は皆が秋の竜によってカナセに送られた所からです。
第三十六話 第一部「七つの旅-世界樹/懐かしき場所へ」
秋の竜が皆を飛ばしたのは、なんとカナセの村のど真ん中でした。釣り大会の結果発表が行われた、あの広場に突如として皆が現れます。
ノーティ「なんと懐かしい……」
トリシア「なつかしい。さかなたべたい」
パワー「負け犬釣り名人はどこかな?」
ティエ「ドデッ」
クライブ「ド真ん中じゃねえか!」
秋の竜は相変わらず雑ですねぇ……。
そんな様子を見て、偶然近くにいた村人が驚いて声を掛けてきました。そりゃあそうなりますよね。
よく見るとその人には見覚えがあり、どうやら、釣り大会で司会をしていた人のようでした。
釣り大会の司会「!? どこから現れたんですか!?」
釣り大会の司会「と言うか皆さん、去年の優勝者の方々ですよね……?」
ジョルティ「今年も参加で」
釣り大会の司会「今年はもう終わってしまいましたよ、残念ながら」
ジョルティ「あああああああああ」
そういえば……ジョルティは密漁疑いで捕まっていたせいで釣り大会には参加できていないんでしたね。実際には冤罪だったのですが……。
トリシア「夏の川魚とかどうしようもないからね」
ティエ「ああ、どうも、大事にしてますよこの釣り竿」
釣り大会の司会「ああ、やはりそのオリハルコンの釣り竿は間違いないですね!」
釣り大会の司会「お久しぶりです、皆さん。今年は皆さんの助言で、普段より頑丈な釣り竿を使うようにしたんですよ!」
ノーティ「ああ、その件は失礼しました……」
その件、というのは、ノーティが借り物の釣り竿でリンギツネを釣り上げようとして叩き折った件です。そういえばあの時はティエがなんとか言いくるめてくれたんでしたね。
釣り大会の司会「いえいえ、こちらこそ強度の低い釣り竿で」
釣り大会の司会「それで…また来てくださったんですね? いえ、突然現れた気がしましたが……」
ノーティ(しかし、どうしましょう?
ここの人たちに世界樹のことをそれとなく尋ねることは難しいでしょうし、知らないでしょうね)
ジョルティ「また美味しい魚料理食べたいなぁ!!」
釣り大会の司会「そういうことなら是非!」
ノーティ「まあ、色々なところを旅していると、色々なことがあるものですよ」
釣り大会の司会「なるほど……?」
クライブ「まあそういう日もあるだろうな」
釣り大会の司会「そ、そんなものですかね?」
ティエ「たまには旅人が落ちてくる、そんなこともありますよ」
ジョルティ「あるある」
釣り大会の司会「そ、そうですね、ある気がしてきました」
まあ滅多にないですけどね?
釣り大会の司会「ま、まあ、美味しい魚料理ということなら、食事処をご案内しますよ。お宿はお決まりですか?」
ジョルティ「決まってないのでこの村で一番いい宿と飯屋頼む!! 前と違って金ならいくらでもある!!」
釣り大会の司会「それはそれは。それではご案内しましょう」
そう言うと彼は、村に通る川沿いにある大きな宿に案内してくれました。川のせせらぎと、野鳥の声が聞こえる、なんとも風流な場所です。
クライブ「そういや前は見てるだけだったなここ」
釣り大会の司会「水車が付いている食事席があるのが特徴です。特に夏場は水のせせらぎが涼しげで気持ちが良いことでしょう」
ノーティ「また違った旅気分ですね」
ジョルティ「こりゃあいいなぁ」
ノーティ「季節も変わって景観もまた……」
ジョルティ「案内サンキュー! じゃあ早速おすすめの飯を!」
宿の主人「はぁい、人数分の季節御膳でよろしいですか?」
ジョルティ「それで!」
宿の主人「季節御膳6つー!」
皆は川に面したテラス席を取り、そこで料理を注文しました。美しい澄んだ川の流れに、日光が反射してキラキラと光っていました。
宿の主人「カナセの夏御膳をお持ちしましたー。ごゆっくりどうぞー」
トリシア「パクー」
ジョルティ「これはどういう料理で?」
宿の主人「夏の川魚とか夏の野菜とか、そういうものを使ったなんかそういうやつです!」
ノーティ「急に産地不詳になってきた」
宿の主人「産地はここですよ!」
トリシア「パクパクー」
ノーティ「うん、味は間違いないですね」
目を盗んでちょっとつまみましたが、説明はぼんやりとしていたものの美味しい料理でした。
ティエ(夏の魚でも食えるもんだなぁ。でもそれなら夏にも大会やればいいのに)
ジョルティ「塩加減が抜群で淡白な白身がホクホクとして…夏の川魚も悪くない! いつ来てもこの村の魚料理は当たりだ! はふはふ!!」
宿の主人「それは有り難いお言葉。どうぞどうぞ、おかわりもありますよ」
ノーティ「さて、これからどうします?」
ノーティ「ここまで送ってもらったのは良いものの……」
歩く喋るノート「なーにが『案外成り行きで』じゃ」
ノーティ「ねー」
ティエ「とりあえず、魔力とか見てみる……?」
トリシア「おっちゃんこっから北に街ってあんの?」
宿の主人「北? 北は山があるだけで、街はないと思いますよ?あんまり遠い場所のことはわからないんですが……」
ノーティ「パワースポットとか、人類未踏の地とかでも構いませんよ」
宿の主人「人類未踏の地のことは分かるわけないじゃないですかハッハッハ」
宿の主人「それこそ北の山は良い魚が取れるんでカナセの皆は感謝してますけど、普通の山ですよ?」
トリシア「そんなことよりおかわり」
ジョルティ「俺も俺も」
ノーティ「皆さんも少しは困ってくださいよお」
クライブ「わからんものに困ったところでわからんもんはわからん」
ティエ「ココの土地の言い伝えでも一度調べてみます?」
ジョルティ「とりあえずゆっくりしようぜ」
ノーティ「まあ……それもそうですか」
宿の主人「今日はお泊りにもなられますか?」
宿の主人「部屋なら開きがございますよ」
ノーティ「あ、では今日は泊まることにします」
ノーティ「適当な部屋をお願いします」
宿の主人「承知しました」
宿の主人「大部屋になさいますか? 6部屋お取りしましょうか?」
ノーティ「枕投げる気分でもないので個室で」
宿の主人「では、個室をお取りしますね。1階の1番部屋から3番部屋と、2階の1番部屋から3番部屋をお使い下さい」
宿の主人「それではごゆっくりー。お食事が終わりましたら、トレイはカウンターに戻してもらえると幸いですー」
そうして、宿の主人は厨房の方へと戻っていきました。それから皆は食事を終え、各々トレイを戻すと、とりあえず一度今とった部屋へと向かいました。
ティエ「とりあえずココの土地の魔力と寝る前の枕元にココの土地の成り立ちの本でもないかなと調べてみるかー」
ジョルティ「せっかくの川辺だし、こっそりリベンジしとくか……ティエ、釣り竿貸して」
ティエ「ああ、良いですよ」
トリシア「ここで結晶に魔力注いだら反応変わったりするのかな?」
ジョルティは皆から離れ、宿の川に面した場所で釣りを楽しみはじめました。パワーもそれについていったようでした。
ジョルティ「お、簡単に連れた。普通サイズかな?」
パワー「俺も釣れたぞ!」
ジョルティ「そっちはちょっと大きいみたいだな」
パワー「アンドリリース」
ジョルティ「!? 食わないだと!?」
パワー「あれは食べ物ではない……」
ジョルティ「何を言っているんだこいつ……」
一方その頃、残ったティエがリン・リラックスオーケストラで魔力を回復しながら魔法結晶に魔力を注いで見ることにしたようです。
カナセが中心地に近い場所なら、それで効果が変わるかもしれない、という考えのようでした。
〈ティエ:秋魔法「リン・リラックスオーケストラ」〉
発動判定:21
回復量:14
ティエ「じゃあ、ノーティさん、貸してもらえます?」
ノーティ「ああ、いいですよ。やり方分かります? 魔力残ってるなら、そちらでお願いします」
ティエ「普通に通すだけですよね?」
ノーティ「ええ、そうですよ」
ティエ「よし、じゃあ気絶ギリギリまで魔力を注いでっと……」
ティエが受け取った魔法結晶に魔力を多めに注ぎましたが、結果はこれまでと変わりませんでした。「書は世界樹の頂きに開く」というそれだけの文章が投影されています。
ティエ「いつものですねぇ」
ティエ「開くってことはこれ自体が書で頂に来たら開くよ、ってことなのかな……?」
ティエ「まあいいや、ダメっぽいし寝よう」
こうして、ティエが最後に床に就き、その日は全員が眠りました。
……それで、次の日の日記についてなのですが……実はまた私の日記の前に他の人の筆跡で日記が書いてありまして。
どうやらまた死の竜人が私達の竜人に接触していたようです。そこについてもお聞かせしますね。
~夏の月 2日夜~
さて、こうしてここに日記を書くのはレパーリア以来か。また勝手に旅人達と日記帳を借りた、記録を残しておく。
レパーリアのときと同じく、白い霧で彼らの夢の中を繋いだ。恐らく、彼らもレパーリアでの夢のことを思い出していたことだろう。
あの時と同じく、私と彼ら以外はこの夢の世界には存在しない。言うまでもなく、竜人である君さえね。
さて、彼らをこちらに呼ぶとしよう。あの時と同じように、鐘を鳴らしてこちらに来てもらう。場所は……そうだな、折角だ、綺麗な川のせせらぎが聞こえるこのテラスが良いだろう。
ゴーン、ゴーンという音が、宿の中に響く。彼らもこれなら、すぐに場所が分かるはずだ。
そして程なくして、彼らがこの場所に訪れた。私が悪魔ではなく竜人の姿で彼らの目の前に姿を現したが、彼らはそこまで驚いている様子はなかった。
ティエ「えーっと こんばんは?」
「久し振りだな、諸君。覚えているかな?」
「いや、思い出しているか、という方が正しいか」
トリシア「久しぶり…?」
ノーティ「えーと、既視感はあるのですが……」
トリシア「変なことしましたか私に」
パワー「誰だこいつ」
「おや、まだ曖昧だったか……よし、なら忘却の魔法を解こう。私の目を見てくれ」
ティエ「じー」
トリシア「案外可愛い」
「慣れない事を言うな照れるじゃないか」
彼らが皆、私の眼を見たところで、彼らに掛けていた忘却の魔法を解除した。これで、あの時の夢の内容は思い出したはずだ。
「……よし、これで魔法は解けた。これであの時のことは思い出したはずだ」
トリシア「君の名は?」
「……我が名はオルクス、死の竜の竜人」
「待て、……これで思い出せていないなら魔法ではなく記憶力の問題だ」
ジョルティ「ご飯はまだかい?」
ティエ「おじいちゃんゴハンはおとついたべたでしょ?」
ジョルティ「毎日食わせて?」
ティエ「あー、その節は便利な通行手段を頂いて」
「ああ、私の金の鍵はなかなか役に立っているようじゃないか。便利なものだろう、竜人の力というのは」
トリシア「便利過ぎて他の竜人から白い目で見られたりするんですが」
ジョルティ「もっと下さい」
ティエ「交易用にも欲しい」
「残念ながら一点ものでね、もう渡せないぞ」
相変わらずそこはかとなく厚かましいな?
ジョルティ「ないのかよー!」
トリシア「ごめんね? どうも竜人への扱いが悪くてね?」
「他に比べて距離が近いからかね……?」
ジョルティ「すぐ常人ぶって露骨に点数稼ごうとするのやめよう?」
トリシア「竜食べたいとか言ってる奴が言うの?」
「まあ、死の竜は食おうとしないらしいからな、私にとっては実害はないが……」
トリシア「食って死んだら本望だろー?」
ジョルティ「美味しいならな?」
トリシア「死ぬほどうまいよきっと」
ジョルティ「まじか、ひと噛みいっとく?もう秋の竜でハードル超えたよ? 俺」
「止せ」
……人選を間違ったような気が多少しないでもないが、いや、そんなことはないはずだ。60%ほどは君の旅人達を信用しているぞ。
トリシア「それで、カレンちゃんと友達の竜人だっけ?」
「友達……ではないが、そうだな。もっともカレン・アージェントの忘却魔法は解いていないから、私のことを覚えていないだろうが」
「ああそうだ、忘れていた。今回は前回のことを踏まえて、茶を用意しておいたぞ」
「王冠アサガオを煎じて作った茶だ。よく眠れるらしいぞ、夢の中で飲むとどうなるかは知らんが」
クライブ「おお、そうか。じゃあもらおう」
トリシア「ということはまた夢なのですか」
「ああ、ここは夢の世界。そして私の棲家でもある」
「で、だ。今回諸君を呼んだのは他でもない、世界樹についての話をしに来た」
ノーティ「なんと!」
トリシア「ご存知で」
ティエ「すばらしい」
「今、この世界の世界樹は機能していない。それも、かなり昔からのことだが……」
ティエ「それは秋の竜もいってましたなあ」
トリシア「じゃあ、やっぱり無駄な魔法結晶じゃないですかー」
「だが、世界樹は存在していないわけではない。確かに存在はしている」
トリシア「あるのかー」
「……君達は存外近くにまで辿り着いたな」
ティエ「四季の竜の中央地点あたりカナーって来たんですよね」
「……叡智を求め、世界樹を目指すならば、その金の鍵が必要になる」
クライブ「叡智ねえ?」
トリシア「竜脈に関係が?」
「ああ、竜脈の一種ではあるが……四季の竜にはわからないであろうことだ」
「世界樹への道は、死んだ竜脈であるが故、我々の領分」
ノーティ「死んだ竜脈……」
トリシア「というかですよ死の竜人よ」
オルクス「何かね?」
トリシア「そもそもあの魔法結晶をあのリッチーに渡したのがオルクスちゃんっていうマッチポンプだったりしませんか」
オルクス「当たらずといえども遠からず」
トリシア「我ながら見事な推理だった」
この金髪女は中々鋭いな? まあ、その通りというわけではなかったが。
ジョルティ「アリアちゃん、してやられてるぞいいのか?」
トリシア「アリアちゃんここいないでしょ夢だし」
ジョルティ「そうなの?」
「ああ、そうだな、緑の子女はここにはおらんよ」
ジョルティ「ポンコツだなぁ!!」
「この前勝手に日記を書いてしまってからどうも良いように思われていないようだからな、呼ばないでおいた」
「叡智の書の魔法に、我々死の竜が関わっていることは間違いない。しかし、あのような形で魔物が持っていたことは、全く我々の及ぶところではない」
トリシア「あのようなってことは、魔法結晶の中身しってるんだね」
「ああ、知っている。その金の鍵を通して、私の元にも諸君の旅のことは伝わるようになっているからな」
トリシア「みられてた!」
「四季の竜と違い、本物の盗み聞きだな、これは」
「……それでだ、私の見立が確かならば……だが」
「そこにいる毛量の多い巨体に鍵を渡し、鍵を使わせると良い。できることなら、空に向かってな」
パワー「え?」
ノーティ「え……え!?」
クライブ「折られそうなんだけど」
パワー「空とはどういうことだ」
ティエ「ええ、渡しちゃっていいのかな」
パワー「鍵かーおいしいかなぁ」
「食うな食うな」
「まあ……私からの話はこれだけだ。だが心せよ旅人諸君。世界樹の頂きに竜の叡智を見ることは、旅の行末と終末を見ることだ。……まだ旅を続けたいならば、後回しにするがよい。それほど時間はないがな。……旅を終わらせる時が来たら……世界樹を目指せ」
ノーティ「いや、ええと、質問といいますか」
「答えられる範囲で答えよう」
ノーティ「死の竜は一体どうしてこんなことを我々にさせるんです?」
「……それについては、じき分かる」
トリシア「寂しいんでしょ死の竜人も」
「……当たらずといえども遠からず、かな」
……本当に鋭い部分があるが、言わないでおいて欲しいこともあるものだ。
トリシア「あと初対面の人に化物として出てくるコミュニケーション力の無さ!」
「あれは見極める意味があったから仕方なかったのだよ!」
トリシア「そうだね……」
何故か悲しそうな顔をしている……いや、やっぱり多少なりともナチュラルボーン無礼だな?
トリシア「これも、起きたらまた忘れるの?」
「いや、今度は忘れない。私のことを忘れさせておく理由もなくなった」
パワー「誰だっけ?」
「……大丈夫なのかコイツは?」
トリシア「大丈夫だと思える要素あるかなあ」
ジョルティ「駄目です」
パワー「またやろうぜ」
「何を言ってるのかもよくわからん」
ティエ「それはこっちも分からないんで」
「まあ……旅の終わりまでその鍵は預けておこう。その時が来たらまた会おう」
トリシア「旅の終わりかー」
クライブ「んー…おお、運がいいな。いいモノ余ってたぞ、もらい物の礼だ」
そういうと、灰金髪の男が綺麗な装飾の入った可愛らしい木彫りの扇子を渡してきた。……私には少々可愛すぎる気もするが。
「……そうだな、折角だ、貰っておこう」
「では、さらばだ。死の竜の加護さえも有らんことを」
ジョルティ「いりません!」
こうして私は彼らの前から姿を消した。……恐らく、もう一度、会う機会があるだろう。その時はまたこうして彼らと日記借りるぞ、春の竜人。
……君の旅路にも、死の竜の加護さえも有らんことを。
Orcus
……と、このような内容でした。何だか要領を得ませんが……死の竜にも死の竜の、思惑があるようですね。
このままにしておいて大丈夫なのでしょうか? ……心配ない、ですか?
竜の君がそう言うなら……分かりました。じゃあ、気にしすぎないことにします。それでは、私の方の旅日記に戻りますね。
~夏の月 3日~
カナセの朝は清々しく晴れやかで、爽やかなせせらぎが聞こえてきました。山鳩の独特な鳴き声が北の山から響き渡り、新しい朝を告げています。
〈コンディションチェック〉
パワー:7
クライブ:18(絶好調)
ティエ:14(絶好調)
ノーティ:14(絶好調)
トリシア:15(絶好調)
ジョルティ:11(絶好調)
皆は目を覚ますと、そのまま朝食をとるために昨日と同じテラス席へと向かいました。すぐに美味しそうな朝食がテーブルに並び、皆朝食を始めています。
トリシア「で、皆今朝の事は覚えてるってことでいいんだろうか?」
朝食を食べていると、トリシアが突然そんな事を言い始めました。私はこの時はまだ死の竜人の日記には気が付いていなかったので……何を言い始めたのかと思っていました。
パワー「誰だったんだろう」
ティエ「関係者じゃないの?」
トリシア「パワーに記憶あるってことは間違いないか」
ノーティ「本当にパワーさんが、文字通り鍵を握る人物に……?」
あのノーティさえ、どこかぼんやりとした様子です。全員が全員、なんだか掴みどころのないような表情をしていました。
トリシア「で、どうするー? 旅の終わりがうんたらって言ってたけども」
クライブ「やらせてみりゃいいんじゃねえの。壊されたら面倒だがまぁ、竜人のものならそう壊れることもないだろう」
ティエ「まあこれ以上旅を続けても私はドンドン資産が増えるから良いですけど」
トリシア「やり忘れた事ってあるっけ? 竜食べるとかってのは一旦おいといて」
ノーティ「皆さんの旅の目的に照らすと良いでしょう」
パワー「なんだっけ」
トリシア「わたしはいつでもいいよ」
クライブ「とくになーし」
ノーティ「私は勿論、叡智の書に迫ることが目的になりましたが……」
パワー「やっぱり寝ることぉ……ですかねぇ……」
トリシア「草食べる事じゃなかったんだ」
ジョルティ「勿論竜食べる」
ノーティ「旅を終えたら、竜を食べるのは難しいかもしれませんね?」
ジョルティ「なんで?」
ノーティ「コネクションが絶たれるでしょうから」
トリシア「終わってから食べさせるって約束だったから問題ないんじゃない?」
ノーティ「あ、そうでしたっけ。まあ、構いませんけども……」
ノーティ「旅を進めるなら、私は文句はありませんよ」
パワー「……その前に、ハルシャ菊が俺を呼んでいる」
ティエ「ここから採取に行ける範囲に山ありませんよ」
パワー「なら湿地で取ればいいだろ!」
ティエ「いえ、だからハルシャ菊は山に……」
パワー「じゃ、行ってくるから!」
ノーティ「待って下さいって、もう……まあ、皆で行きましょう。終わり次第移動できるように」
トリシア「はーい」
……神妙な雰囲気かと思いましたけど、どうやら気の所為のようですね? 結局何だかいつも通りでした。
こうして皆は湿地の方へと向かい、パワーに金の鍵を渡した後に薬草を取るパワーとノーティを待つことになりました。
〈薬草取り:湿地:目標10〉
パワー:5(失敗)
ノーティ:13(アカツキ紅花1獲得)
パワー「あああああああああああああああ」
パワーは薬草が取れなかったことに憤慨しているのか、突然受け取った鍵を足元に投げつけました。頑丈なのでその程度では傷一つ付いていない様子でしたが……。
喋る歩くノート「おい、大事なもんだろ!」
それを見越したかのように喋る歩くノートが鍵をキャッチしていました。……高性能ですね?
ノートがキャッチした鍵は、とりあえずクライブが拾い上げました。
ティエ「じゃあ、今ノーティが取ったこのアカツキ紅花を売ってあげましょう、5万Gでいいですよ」
ティエが仰々しく、そんな冗談をパワーに投げかけると、パワーは目の色を変えてティエに詰め寄り始めました。
パワー「買います! 買います買います買います買います買います」
ティエ「ヒェ!?」
パワー「食べます食べます食べます食べます食べます食べます」
ティエ「どうしよう……こんなつもりでは」
パワー「あかつきべにばなぁ…くわせろよぉ…」
ティエ「わ、分かりました、ほら、このボトルに入れておくので、これが壊れる寸前に食べて良いですよ。なんと今ならタダ!」
パワー「やったぁ!」
ノーティ「そもそも私が採ったんですけど……」
……というような意味不め……意味深長なやり取りがあってから暫くして、パワーが飽きたかのように鍵の話に戻りました。
パワー「鍵ぃ…使ってもいいんですかぁ…?」
パワー「食べてもいいんですかぁ」
ティエ「たべちゃだめ」
ノーティ「パワーさんが良ければ……食べては駄目です」
トリシア「いぎなーし、いいよー」
クライブ「よしパワーあけろ」
パワー「ほーい」
そう言うと、クライブがパワーに向かって先程拾った金の鍵を投げ渡しました。
パワーはクライブが投げ渡した鍵をスタイリッシュにキャッチしたかと思うと、突然それを空に向かって鍵を回しました
……え? なぜ? とこの時の私は思っていました。だって、意味分からないですよ、急に。
すると、パワーの頭上近くに、突如として竜の道が開きました。ここには、竜脈は無かったはずなのに、です。竜の道の向こう側には、青い空と、大きな木の幹が見えていました。
トリシア「とおっ」
パワー「レッツラゴー!」
ティエ「ちょっとぉ! 道高いんだけど! 届かないよ!」
パワー「2段ジャンプしろ」
ティエ「ええ……」
パワー「しょうがねぇな俺を踏み台にしろ」
ティエ「ありがとう!」
ティエ「ほーら、ニハ・コビ・ドウ・ブツもおいでー!」
パワー「イタァイ! ぐぇぇ!」
ジョルティ「あ、そうだ、アリアちゃん、オルクスちゃんに色々出し抜かれてましたよ?」
トリシア「毛むくじゃらが空に向かって鍵あけたら世界樹に行けるよって言ってた」
ここで私は初めて、死の竜人が今回の件に関係しているのだということを知ったのでした。……全く、死の竜人も何かするなら一言相談してくれれば良いのに。
ジョルティ「じゃ、行こうか」
こうして、皆に続いて私もその竜の道を通り、その向こう側に出ました。そこは、小さな島のようになっていました。
冬の竜が棲家としていたあの島のような、美しい自然に満ちた島です。
しかし、大きく違っている点がありました。島の周囲を囲んでいるのは海ではなく……空だったのです。ここは、どう見ても空に浮かんでいる島でした。
その島にはいくつかの建物の跡のようなものがありました。人が住んでいた形跡はあるものの、それらの建物はいずれもかなり古びており、多くが苔生し、蔦が絡まり、自然の一部に変貌しているようでした。
そしてその島の中央に、何より大きな存在感を持って鎮座していたのが……巨大な一本の樹です。ゼペリオンの光線樹をも遥かに凌ぐその樹は、頂きが霞んで見えません。
しかし、大樹の肌は至る所が剥がれ落ち、傷んでいるように見えました。
パワー「でかい木だー!! うまそー!」
トリシア「何処だろここー」
ティエ「……落ちたら死ぬやつー」
ノーティ「下は見ないようにしよう……」
遙か下方、霞んで見えないような距離には、確かにこれまで旅をしてきた世界が見えました。アージェントの慰霊の塔も、クローナ・ディアの大闘技場も、ラ・ヴィスの水竜の祠も、リーテの大水車も、レパーリアのお城も、フリーグゼルの図書館も……竜の視力ならかろうじて見えました。
クライブ「あ、パワー鍵返せ。無くすだろ」
パワー「ほーい」
トリシア「空にこんなのがあっただなんて……」
ティエ「とりあえず飛んでみます?」
ティエ「ドラゴンフライで飛んで、途中で止まれそうなところで止まってかけ直して…が、一番早いかしら」
ノーティ「まあ……この樹、ですよね……」
ノーティ「あのオルクスさんの言うことを鵜呑みにするならば、これが世界樹と見るのが自然な気がします」
トリシア「とりあえず魔法結晶どうにかしてみたら?」
ノーティ「そうですね、まずは魔法結晶に魔力を。魔力結晶を貸してください」
ティエ「あ、そういえば借りっぱなしだった。はい」
ティエ「最悪自分以外ならリンリラックスオーケストラでMP回復できるからガンガンつかっちゃっていいのよ」
ティエ「1時間かかるけど」
ここで再びノーティが魔法結晶に魔力を注ぎ込みました。しかし、やはり結果は変わりません。「書は世界樹の頂きに開く」と表示されただけでした。
トリシア「頂きだよ頂き」
トリシア「てっぺんのぼれってことでしょ」
パワー「いただきを、いただきまーす」
トリシア「世界樹たべようとしないで」
特に意味がある発言ではなかったのですがパワーのために記録しておきます。
ティエ「とりあえず、世界樹に近付いて見てみましょうか?」
世界樹は島の中央にあるようで、この場所からは少し距離がありました。歩いて行くなら、自然に飲み込まれた町の中を歩いて行くことになりそうでした。
ジョルティ「とりあえず、生き物がいないかどうか、ちょっと探してみるか」
〈動物探し:遺跡:目標8〉
ジョルティ:6(失敗)
パワー:13
クライブ:11
ジョルティ「んー、何か生き物おらんかなー?」
クライブ「いや、所々にいるようだ。だが、危険そうなのは見当たらないな。普通の森とほぼ変わらん気がする」
ジョルティ「あ、双眼鏡蓋したままだった」
パワー「なにやってだ」
ジョルティ「全部が全部死んでるってわけじゃないみたいだな」
ティエ「じゃあ徒歩?
キャッツドライブ? ドラゴンフライ?」
ノーティ「キャッツドライブを試してみますか?」
ティエ「じゃあ終わり際に合わせてリン・リラックスで魔力補填しますね」
〈ノーティ:呪文魔法「キャッツドライブ」〉
発動判定:5
〈ティエ:秋魔法「リン・リラックスオーケストラ」〉
発動判定:19
MP回復量:8
周囲の木々がものすごい勢いで、なぎ倒されるにして道が作られました。
しかし、元々が建物に絡みついた自然が多いということもあり、完全に通り道ができたわけではないようでした。明らかに、本来の魔法の効果を逸脱しています。
さらに、その直後に詠唱されたティエのリン・リラックスオーケストラも、これまでに奏でられたものとは比べ物にならないほどの音量でした。……しばらくの間耳が痛くなるほどに。
ただ、こちらは魔力の回復量自体は変わっていないようでした。……耳の痛め損ですね。
ティエ「増幅されてる……?」
クライブ「うるせえ」
ティエ「なんでこんなことに?」
ティエ「普通に楽器を弾いてみよう」
ティエは音自体がおかしいのではないかと疑ってか、荷物から楽器を取り出し簡単に爪弾いてみせましたが、特にその音に変わりはありませんでした。いつも通りの楽器の音色です。
ティエ「ということは、魔法に反応してなにか起きる系の森?」
ノーティ「ちょっと別の魔法も試してみますか?」
〈ノーティ:呪文魔法「ピュア・クリスタルライト」〉
発動判定:21
どうやら知的好奇心をくすぐられたらしいノーティが、手持ちのペンに光の魔法を唱えました。そのペンはまるで目の前に太陽があるかのように光り輝き、暫く残像が焼き付きました。……こうして至近距離にいた私は耳と目を的確に潰されたわけですね。
ティエ「わあ」
ノーティ「うわあ」
ティエ「けしてけして」
ノーティ「消します消します」
ノーティが慌てて魔法の効果を打ち消し、その光はすぐに消えました。
ノーティ「何ですか、ここは……」
ノーティ「魔法の力が増幅されているように感じますが」
トリシア「楽しそうだなー(喫煙中)」
ノーティ「世界樹は活動していなかったはずでは?」
〈ジョルティ:春魔法「エミナ・ノンノ」〉
発動判定:10
今度はジョルティが地面に向かって魔法を使いました。本来ならば一輪だけ花を生み出すはずのその魔法は、辺り一面を花畑へと変貌させます。
ジョルティ「面白そうなので」
ジョルティ「ほら! パワーさん食べていいぞ!」
パワー「ハーブじゃないならいらない」
パワー「でも食べとこ」
ノーティ「というわけで、だんだん仕組みがわかって来ましたね」
パワー「つまりどういうことだってばよ」
ジョルティ「世界樹付近では魔法の効果が増大するって事だ」
ノーティ「ということです」
ティエ「でもリンリラックスオーケストラはただの音量アップでしたね……つまんない」
繊細な私の耳が犠牲になっているのですけどもね?
ノーティ「ともかく、先に進みましょうか」
トリシア「空で吸う煙草ってのもおいしいなー増大されてんのかなースパー」
ティエ「まあ、世界樹方向へいってみますか」
ジョルティ「とりあえず世界樹へ向かおう」
クライブ「さっさと行くぞ」
ノーティ「いざ世界樹へ」
一通り、魔法の作用を確認した所で、皆世界樹の方に向かって歩きはじめました。増幅されたキャッツドライブによって歩きやすくなっているのは、ありがたいことです。
〈移動チェック:遺跡の森:目標8〉
パワー:7(失敗)
クライブ:13
ティエ:14
ノーティ:13
トリシア:10
ジョルティ:16
今となっては森になってしまっているものの、その場所はかつては皆さんが今まで歩いてきたような、町であったことがよくわかりました。民家が並ぶエリアもあれば、形の違う建物が並ぶエリアもあります。
その様子が気になったのでしょうか? パワーはしきりに周囲をキョロキョロと見ていたせいで何度か躓いていたようでした。
ティエ「ほー。なにか生きてる施設でもあるかな?」
ジョルティ「これも旧文明の町跡なんだろうな」
そして、その中に1つ、古びた教会がありました。規模は大きくこそないものの、かつてはここに人が集まっていたであろうことが容易に推し量れます。……今となっては苔が生え、蔓が絡んでしまっていましたが。
……そんな教会を見て、パワーが突然奇妙なことを言い始めたのです。
ノーティ「教会ですか……何の信仰でしょう?」
パワー「懐かしいっすね」
ティエ「え?」
トリシア「パワーさん何いってんの」
ノーティ「懐かしい?」
パワー「薄っすらと覚えている。昔よりも随分ボロボロだが」
ティエ「まさか……ココに住んでた?」
ジョルティ「パワーさん、記憶が…」
パワー「ここにいた気がする」
教会はそれほど大きなものではありません。中を見ると、世界樹と5体の竜の描かれたステンドグラスが残されていました。
ジョルティ「ここにも竜が描かれてるな」
ノーティ「5体……5体?」
ティエ「春夏秋冬と……?」
ノーティ「どなた?」
クライブ「死じゃねえの」
トリシア「そんな安直なやつなの?」
ティエ「まあ竜の特徴見ないでいってますからねえ。どれどれ」
ノーティ「それはまあ、僕らが知っている竜の中で一際特別なものでしたが」
ステンドグラスに描かれていたのは、緑、紅、蒼、黒の竜と、白い竜でした。白い竜以外は四隅に、白い竜は中央に描かれた世界樹の上に、それぞれ配置されていました。
ノーティ「白い竜といえば、思い浮かぶのはやはり……死の竜ですか」
トリシア「他の竜も似てるような」
ノーティ「やはりそういう風に見えますよね、皆さんも」
トリシア「紅の竜とかこの前のとそっくりっちゃそっくりだよね」
ジョルティ「この町の奴らは竜を可視化出来てたって事かね?」
ノーティ「そうですね、ここに住んでいた人々は竜を信仰していて、しかし……」
ノーティ「死の竜が信仰の対象に? 少し引っかかる気もしますが……記録だけはしておきましょう」
トリシア「まあ人は死ぬし?」
トリシア「昔は結構当り前だったとしてもおかしくはないかもねっと」
ジョルティ「他に手がかりになりそうなものはないかな……」
〈捜索〉
ジョルティ:12
ジョルティが他に何かないかと教会を有るき回りましたが、それ以外にはこれと言って物は残されていません。殆どが朽ちてしまっていました。
ジョルティ「特に手がかりはなさそうだな、先を急ごうか」
ティエ「竜全体を崇拝してたならなんとかの竜……っていうくくり無しで信仰の対象になるのでは?」
ジョルティ「オルクスちゃんの口ぶりだと、四龍と白いのじゃ多少のパワーバランスがあったのかもな」
ティエ「パワーさんが昔つかってた聖書的な物ないんですかね?」
パワー「特にはないだろうなぁこの状態じゃ」
パワー「まぁ日記でもあればいいけど俺は書かねぇからなぁ、そういうの」
……という割には、何気にちゃんと旅日記はつけているようなのですが。
トリシア「なつかしいってなんだろうなあ」
ジョルティ(もしかして、前にパワーさんから世界樹の実だって食わされそうになったあれ、本物なのかな?)
パワー「さぁ世界樹かじりにいくぞお」
ティエ「これ以上なにもないなら、元の道に戻りますか」
こうして皆は教会を後にして、世界樹への道に戻りました。……一体どういうことなのでしょうか? パワーの言うことはいつもめちゃくちゃで荒唐無稽ですが……今日のそれはまた違っているように思いました。
世界樹は教会からはそれほど離れていません。程なくしてその麓にまで到着しました。
近付くとそのスケールがさらに大きなものとして感じられました。やはり上方は霞んで見えません。
しかし、やはりその木肌は剥がれており、かなり傷んでいることが分かりました。見上げる限り、葉が付いている様子もありません。
ノーティ「これは見るからに生気を失っていますね……」
トリシア「頂きがどうのこうのって」
パワー「頂きを、いただきます」
トリシア「はい」
ノーティ「頂きって、登るということですよね?」
ティエ「ドラゴンフライで飛ぶとか?」
トリシア「登るっていってもどうすりゃいいんだろうねえ」
ノーティ「登山のように……」
クライブ「一応飛んでみるかトロンベ」
トロンベ「クエッ!?」
クライブに手綱を引かれ、トロンベは一応頑張って登ろうとしていましたが、ほぼ垂直の木肌を登ることは難しく、すぐにひっくり返って落ちてしまいました。
クライブ「ダメだな」
ノーティ「でしょうね」
ティエ「一旦休めそうな太い枝とかあるならドラゴンフライしては留まるけど……」
ノーティ「上が見えないのでは測量も難しいですね……」
ノーティ「登っている途中にやはり引き返そうというわけには行きませんが」
トリシア「なつかしいとか言ってたパワーなんかしらないの」
パワー「無理だよ」
トリシア「一言っすね」
パワー「無理」
ノーティ「まあそう言わず……皆さんを連れて行くならドラゴンフライも……いや、どうなるんでしょう。効果が増強されてすいすいと登れるようになりますかね?
ノーティ「試しにやってみましょうか?」
ティエ「やってみますか」
〈呪文魔法「ドラゴンフライ」〉
ノーティ:13
ティエ:17
とりあえず試してみようと、2人がドラゴンフライを詠唱すると--
物凄い勢いで上方に向かって射出されました。瞬く間に2人の姿は豆粒のような大きさになってしまいました。
ノーティ「うわあああああ」
ティエ「わあああああああ」
私も急いで化身の姿になり2人を追いかけて飛び上がります。追いつくことができたのは、2人が魔法の制御ができるようになったらしい、世界樹の中腹ほどの場所でした。
下はもう霞んでおり、恐らく2人には他の4人の姿は見えないことでしょう。私は竜人視力があるのでなんとか見えましたが。
ティエ「つかまるところつかまるところ」
ノーティ「こわいよお」
ティエ「ドラゴンサインするしかないですかね……もうおりたくない」
これは私の飛行経験からくる概算ですが、ここは恐らく上空200パワーぐらいのところだと思います。まあ要するに400メートルぐらいです。
ノーティ「てっぺんは……まだ見えませんね」
ティエ「魔方陣書くスペースあるのかなぁ……」
ティエ「効果時間まだありますし……てっぺん見ます?」
ノーティ「もう少しだけ登りましょう、魔法の効果時間は10分保つはずです」
ノーティ「頂上が見えるまで昇りましょう」
2人はそのまま世界樹の頂きを目指して飛び上がり続けます。私もついていきますが、なにせ速度が速く追従するのでやっとでした。
それから少しして、世界樹の上部が見え始めました。大きな枝が大量に生えていますが、いずれも葉はついていません。……やはり枯死しているようです。
ちなみに竜人視力によりますと、地上の民(いや、そこも天上なんですけども)は狩りを始め、食事の準備を始めているようでした。……自由ですねぇ。
それからティエとノーティの2人はさらに頂上を目指して飛び上がっていったのですが……明らかに途中から加速していました。世界樹の頂きに近づくに連れて、魔力の増幅効果が更に高まっているのかもしれません。
ノーティ「うーむ、どこかに留まれるものでしょうか……あああ」
ティエ「下も上も速度がハネ上がるのかぁあああああああ!」
ノーティ「この辺りで魔力の増幅が激しくぅぅ」
ティエ「ドラゴンサイン出来そうな広いスペースに止まりますかー!」
ノーティ「下を見ないように降り……たくない……けど皆さん呼ばないと……」
ノーティ「ああ……でももう無理」
結局ティエとノーティは頂上まで飛ばず、途中の太い枝に着陸しました。魔法陣を書くのにも十分なスペースがあります。
ティエ「じゃあドラゴンサインを……頼みたかったけど自分でやるか……」
〈ティエ:呪文魔法「ドラゴンサイン」→クライブ〉
発動判定:12
伝達内容:我々は世界樹の頂上が見える程、高い場所におります。ドラゴンフライは先端と根元で加速して偉いことになります。使用の際は気をつけてください。 おなかすいた
ドラゴンサインの効果も増幅されているようで、300字ほどまで伝達できるようになっているようでした。……読む方が大変そうですけれども。
クライブ「…余裕あるし平気そうだな」
トリシア「上の方に向かって鍵開いたらあっちいけたりしてねーハハハー」
ジョルティ「よし、飯ができたぞ。生き物は普通にいたな。返信しておくか」
〈ジョルティ:呪文魔法「ドラゴンサイン」→ティエ〉
発動判定:5
伝達内容:メシデキタ スグモッテク
ウマイ
ティエ「ノーティさん。返信きたんだけど……内容が『めしできた すぐもってく うまい』 って」
ノーティ「はあ……? ご飯食べてるんですか?」
ティエ「そうみたいですねぇ。ここからだと見えませんけど」
ジョルティ「まあ、飯も食ったし、いい加減追いついてやるか……まとめてドラゴンフライ掛けるぞ」
〈ジョルティ:呪文魔法「ドラゴンフライ」→地上の4人〉
発動判定:Fumble
ジョルティ「あっ、魔力がふっとんだ!」
パワー「なにやってだ」
ジョルティ「仕方ないから、明日にしよっか!」
……ものすごいタイミングでジョルティが魔法発動に失敗していました。あれ?
どうしましょう?
ティエ「……来ませんね」
ノーティ「魔力切れでも起こしているのでは?」
ティエ「あー……音量上がってるなら、もしかしたら届くかな?」
〈ティエ:秋魔法「リン・リラックスオーケストラ」〉
発動判定:21
MP回復量:6
相変わらずものすごい音量でリン・リラックスオーケストラが奏でられました。身構えていないと落ちてしまいそうな衝撃的な音量は、どうやら地上で待つ4人のもとにまで届いたようです。
ジョルティ「お、魔力が……まあ一言入れておくか」
〈ジョルティ:呪文魔法「ドラゴンサイン」→ノーティ〉
発動判定:9
伝達内容:ジュツ シッパイ メシオワッタ スグカエレ
ノーティ「返信がありました。……『術 失敗 飯終わった すぐ帰れ』 とのことです。はあ?」
ノーティ「何でご飯食べてるんですかね」
ティエ「……もしかしなくてもですけど」
ティエ「これ、鍵もってから飛ぶべきでしたね」
ノーティ「ああ、そうかもしれないですね。どうしよう……戻るんですか……?」
ティエ「セーフティゼロつけて、飛び降ります? 最終手段ですけど……」
ノーティ「!」
〈ノーティ:呪文魔法「セーフティ・ゼロ」→自身〉
発動判定:14
〈ノーティ:呪文魔法「ドラゴンフライ」→自身〉
発動判定:8
ティエ「ホントにかけた!?」
ノーティ「もうやだ帰る!」
ティエ「本当にやるんですか!?」
高さからの恐怖のせいか正気を失っているとしか思えない行動ですが合理的といえば合理的ではあるのでしょうか……? ともかくノーティは2つの魔法を自身に掛けるや否や、ティエを枝に残したままその身を宙に投げ出しました。
セーフティ・ゼロの効果時間中に着地するために、ドラゴンフライの加速力を地面に向かって使うことにより、亜音速で降下していくノーティの姿がそこにはありました。
ノーティは感覚で着地の瞬間を見極め、その魔法の制御を試みます。
〈制御:敏捷+知力:目標10〉
ノーティ:14
……結局、ノーティは地面のすんでのところで制御に成功し、セーフティ・ゼロの恩恵に預かる必要なく着地できました。……まあ、多少足ぐらいは痛かったことでしょうけども。
ノーティ「シューッ……」
クライブ「お、戻ってきた」
ノーティ「……生きてる」
クライブ「生きてるな」
ノーティ「あ、そうだ」
ノーティ「ええと……鍵を持っていけば良かったですね、といっていたような」
クライブ「鍵? ああ、上に開くかってことか」
ノーティ「私が鍵を回したらどうなるんでしょう?
あそこに繋がりますかね?」
クライブ「さあ? やってみればいいんじゃないか。ほれ」
ノーティ「やってみましょう」
ノーティが鍵を受け取り、先程の枝の方に向かって回すと、まさにティエの真横に竜の道が繋がりました。
ノーティ「あっ」
ティエ「あ」
ノーティ「どうも」
トリシア「予想が当たった」
ジョルティ「飯は冷めちゃうから食った」
ティエ「おかえりなさい?」
ティエ「とりあえずここを中継地点にしておりますか」
ノーティ「ええと、ご飯……」
ノーティ「保存食いただいていいですか」
クライブ「好きにするといい」
ティエ「ああわたしも食べます」
ノーティ「もう登りたくない」
クライブ「それで、どうするんだ。明日に回すのか」
ノーティ「魔力がもう残っていないので念には念を入れて、休憩したいです。とても疲れました」
ティエ「とりあえずエニウェアコテージしますか。……どうなるのかちょっと不安ですけど」
〈ティエ:呪文魔法「エニウェア・コテージ」〉
発動判定:12
ティエが呪文を唱えると、そのまま普段の3倍程に大きくなったコテージができました。
階段の段差などもそのまま大きくなっているので使うのが大変で、特に居住性が良いということもなさそうでした。
ティエ「ただでかいだけかぁ……じゃまくさぁい」
ジョルティ「ドアノブが遠いんですが」
強いて言うなら21人くらいまで入れそうでした。……いや意味があるとは思えませんけれども。
ノーティ「世界樹の頂きへはまた明日……知的好奇心が恐怖心に負けました」
その後、ティエはもう一度リン・リラックスオーケストラで魔力を回復し、ミノーンビバークを使っていました。……こちらも普段より大きなサイズのものができました。中で寝返りがうてそうなぐらい。
ティエ「かえって寝づらそう」
クライブ「まあとりあえず寝て明日に回すぞ」
ノーティ「では、寝ましょう」
〈ノーティ:冬魔法「フユノネムリ」〉
発動判定:22
何を思ったのか睡眠魔法を自分を中心に展開し、ノーティはそのまま安らかな眠りに就きました。……そんなに疲れていたんですかね? 他の皆もとりあえず眠り、明日に備えることにしたようでした。
第三十六話 第一部「七つの旅-世界樹/懐かしき場所へ」 完
こちらは、2017/3/3,4に行ったオンラインセッションのリプレイです。
1人ずつにドラゴンフライのダイスを振るの面倒だからまとめても良い?というジョルティの提案を受けた結果、大ファンブルを起こすという神が降りた回でした。要するにこのファンブルは4ファンブル分の価値がありました。
世界樹という、りゅうたまルールブックには登場しない完全オリジナル設定が中心になっているので「良いのか?」とちょっと思わないこともありませんが……ご容赦くだされ。
【参考サイト】
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