第四話後編「翅蟲の正体」
根城に残る盗賊を討伐するために北の山に登ることを決めたのは良いものの、その日は陽が強く、いわゆる猛暑です。暑い中の山登りともなれば、当然疲れが心配になるところですね。
〈移動チェック:暑い山:目標11〉
クライブ:7(失敗)
ティエ:8(失敗)
ノーティ:6(失敗)
トリシア:10(失敗)
ジョルティ:16
〈方向チェック:暑い山:目標11〉
ノーティ:14
山は道も分かりにくいものですが、そこはノーティがしっかり道を把握してくれていたようです。もう1日山歩きにならず胸を撫で下ろしました。その頃になると、昼の暑さが嘘のように冷え込み、今度は肌寒いくらいになっていました。
〈狩猟チェック:目標10〉
クライブ:8(食料0)
ジョルティ:Critical(美味しい食料4)
〈釣りチェック:目標10〉
ティエ:21(美味しい食料1)
食料調達でも、やはりジョルティは大活躍を見せます。山の空気が合っているんでしょうか、野生児(というには大人過ぎますけれど)のように動きまわり、生きの良い食材を手に入れることに成功しました。
一方その頃、残ったノーティとトリシアは野営の準備を始めています。ノーティは夜の襲撃に備えてアラート・ベルアラームの魔法を使いました。
〈野営チェック:目標11〉
ノーティ:5(サポート成功)
ティエ:
リーダースキル発動により判定+1
トリシア:10→11
トリシアは珍しく野営に手間取っていましたが、釣りから戻ってきたティエが機敏に手伝い、なんとか見られる状態にまで持っていくことが出来ました。私としても、しっかり寝られる場所が出来て良かった次第です。
さて……ゆっくり眠れると思ったところでしたが、彼らが眠りに就いた丁度その頃、急にけたたましい音が響き渡りました。先ほど、ノーティが掛けたアラート・ベルアラームが何者かに反応しているようです。彼らはバッと飛び起きて、各々武器を取りました。
アラート・ベルアラームを鳴らした張本人達はキャンプを望む崖上におり、アラームの音に驚きながらも矢を射掛けてきます。矢は彼らには命中しませんでしたが、一本が私の足元に刺さりました。……危なかった。
《戦闘開始》
敵の盗賊は崖の向こうから彼らを狙っており、このキャンプからでは近接攻撃が届きそうにありません。近付くには崖を登るしか無さそうです。
〈イニシアチブチェック〉
前 トリシア:16
前 ティエ:14
前 クライブ:8
後 ノーティ:7
後 盗賊1:7
後 盗賊2:7
前 ジョルティ:4
〈ラウンド1〉
敵が崖上にいるとは言え、弓を使うトリシアには関係がないようでした。夜襲で機嫌が悪いのか、なにやら罵倒をしながら矢を放ち、盗賊の一人の肩を見事に射抜きました。
ティエはカナセで貰ったオリハルコンの釣り竿を使い、盗賊の一人を引きずり降ろそうとしたようです。……が、釣り針は全く見当違いの方向へと飛んでいきました。
クライブは崖下からでは攻撃することが出来ないため、剣を振って威嚇をしますが、手を滑らせてしまって剣を落とし、かえって自分が慌てているようでした。
ノーティは魔力を節約したいらしく、魔法を使うのは控えて使えるものが周囲にないかを探していました。
盗賊の1人は釣り竿で攻撃されたのが気に障ったのか、ティエに向かって矢を放ちますが、当てる事はできません。
もう1人は落ち着いた様子でノーティを射撃しましたが、こちらも当たりませんでした。
ジョルティは寝起きでまだ頭がしっかりしていないのか、戦闘に身が入っていないようです。落ち着こうとしているようでしたが、恐らく何か美味しいもののことを考えていたのでしょう。
〈戦況変化〉
前 トリシア:16
前 ティエ:14
後 ノーティ:7
後 盗賊1:7
後 盗賊2:7
前 クライブ:7
前 ジョルティ:4
〈ラウンド2〉
トリシアは再び同じ相手に向けて矢を放ちましたが、崖下の不利もあり、今度は命中させることができませんでした。
ティエは再び盗賊を引きずり降ろそうと釣り竿を振るいます。今度は釣り針が盗賊の1人に命中しましたが、その後力の入れ方を間違い、針が外れて後ろに転がっていきました。
ノーティはとりあえず戦場の様子を見ている様子でしたが……読んだ本のことでも考えていたのでしょうか、やはり余り身が入っていない様子でした。
盗賊はジョルティが弓を持っていることに気付き、そちらに攻撃を行いますが、矢はジョルティの鎧に弾かれほとんど傷を与えることができませんでした。
もう一人の盗賊の矢はジョルティの鎧の隙間を抜けて、多少なりとも傷を与えることができたようです。
クライブは先程のミスで慌ててしまっていたため、少し息を整えていました。
ジョルティは矢を放ちますが、トリシア同様崖下からの攻撃ということもあり、命中させることはできませんでした。
盗賊1「チッ……しぶとい連中だ。ここで仕留めきるのは無理だな」
盗賊2「……仕方ない、一旦戻ろう。このままやり合ってもジリ貧だ」
盗賊達はそんな会話をすると、夜の闇の中へと消えていきました。
《戦闘終了》
クライブ「……逃げられたか、警戒されたな」
ジョルティ「あらら、町を襲った奴らと違って意外と賢いのね」
トリシア「襲ってきて逃げるとか、そんなんだからハゲるのよ。……寝る」
ノーティ「クライブさん、寝る前に治療しましょうか」
クライブ「悪い、頼む」
そんなこんなで、彼らは再び眠りに就くことにしたようです。……一応言っておきますが、盗賊はハゲているのではなく剃っているだけのようでした。……何のフォローをしているのか自分でも分からないんですが……。
〈コンディションチェック:3日目〉
クライブ:8
ティエ:13(絶好調)
ノーティ:5
トリシア:4
ジョルティ:6
〈薬草採り:山:目標10〉
ノーティ:12(白夜ハルシャ菊入手)
〈移動チェック:寒い山:目標11〉
クライブ:13
ティエ:8(失敗)
ノーティ:4(失敗)
トリシア:14
ジョルティ:11
盗賊の居所とみられる場所は、キャンプからそう遠くはなく、迷うことはありませんでした。しかし、険しい山は体力のないティエとノーティにとって、体を疲れさせるのには十分な道だったようです。
そうして彼らは、山の中腹にある、洞窟を発見しました。
その洞窟の前には、体格の良い男が、さながら彼らを待っていたかのように腕を組んで立っていました。服装こそ盗賊達とそれほど変わりませんが、腰には小さなポーチを付け、顔を隠すようなフードを被っています。
周囲には他の人の気配はしません、ただ、その男の足元には一頭の犬が座っていました。
ジョルティ「……とりあえず周囲に誰かいないかを確認しよう」
〈動物探し〉
ジョルティ:7
ジョルティは周囲をぐるりと見回しましたが、他の敵を見つけることはできませんでした。もともと盗賊たちの根城ということもあり痕跡も大量に残されているのか、ジョルティの目でも今この周囲に人がいるかどうかを判断することはできなかったようです。
それでいて、彼らにとっての懸念事項はあの犬でした。犬は人間よりも何倍も知覚に優れた生物です。(竜人ほどではありませんけどね?)人間の彼らが、気配を消したまま男に接近することは難しいと判断したようです。
そのため彼らがとった作戦というのが――
トリシア「おいこら、でてこいや!」
ジョルティ「戦争じゃあああ!」
――正面突破。いやはや、正攻法といえば聞こえは良いですが……いえ、良いと思います。無理に奇襲をして犬に看破されるよりは、こっちの方が正解だと私も思います。……第一声が問題なだけで。
男「騒がしいな。なるほど、お前らがあいつらの言っていた旅人か。それで、俺を殺しに来たんだな?ゴレンの連中にでも頼まれたか」
トリシア「いや?個人的に襲われたから気に食わないだけ」
ジョルティ「不可侵と貯めこんでるものを出すなら見逃してやってもいいけど?」
2人の言葉を聞いて、男は微かに笑いました。
男「不可侵、不可侵か。おかしなことを言うな。お前らはゴレンの人間じゃないだろう。お前らが町を離れた後、俺達が約束を守っているかどうか、どう見極める?」
男「貯めこんでいるものなどない。渡せるのは俺とコイツの生命ぐらいなものだ」
男がそう言うと、男の足元の犬が返事をするように小さく吠えました。……あの犬は旅人達の方を一人ひとり見ているようでしたが……途中私の方も向いた気がしました。
ジョルティ「斥候は帰って来てるんだから、1人と1匹ってワケ、ないよなあ?」
男「あいつらではお前らの相手にはならんからな、ここにはいない。正真正銘、俺達だけだ」
ティエは男が嘘を言っているのではないかと疑いの目を向けています。
〈見破り判定:知力+精神:目標8〉
ティエ:13
ティエ「……嘘は言ってないように思います」
男「まあ、盗賊の言うことなど土台信用できんだろう?」
トリシア「正直な話、潰しに来たわけだけど、そっちはどうなのよ」
男「そちらがそのつもりなら、俺は迎え撃つだけだ。帰るというなら、わざわざ追いはしない。好きにするが良い」
ティエ「じゃあ、昨日の奴らは?」
男「随分、こちらのことが気になるようだな。それを聞いてどうする。ここにいない連中がどうしようが、お前らには関係がないことだ。第一、もし俺以外の奴が村を襲っていたとして、どうするんだ?急いで追いかけて追いつくとでも?」
男は終始、冷めた眼で話を続けています。氷のような視線は、あの犬と同様、私のことが見えているのではないかと疑いたくなる程鋭いものでした。
ジョルティ「あんたらの目的は結局なんなんだ」
男「答える義理はない」
ティエ「そこを隠されちゃうと、我々も戦うしかなくなっちゃいますねぇ」
ノーティ「……まあ、残党が後から来たとしても、負けるつもりはありませんが。皆さんだってそうでしょう?」
トリシア「そっすね」
ジョルティ「よし、やろう」
クライブ(無言で剣を構える)
彼らは結局、男と戦うことを選んだようです。私の目からみても、男の意思は固まっていて、これ以上は押し問答になることは明白でした。
《戦闘開始》
男「良いだろう」
男「戦場の礼儀だ、名乗っておこう。俺は銀針の蠍、レイジャ・ギルネシア。コイツはディラと言う。……まあ、どうせすぐに忘れる名だろうが」
トリシア(忘れる、ってことは、生きて帰す気があるってこと?)
ジョルティ「俺はハンターのジョルティだ。お礼参りだ、狩らせてもらうぜ」
クライブ「……クライブという。まあ、お互い忘れてしまうのだろうが」
ティエはこの間に、じっとレイジャの様子を観察して、大凡どのような能力を持っているのかを分析していました。
〈イニシアチブチェック〉
前 弓 トリシア:13/HP18
前 剣 クライブ:13/HP16
後 短 ノーティ:12/HP8
前 剣 レイジャ:10/HP24
前 無 ディラ:9/HP??
前 釣 ティエ:7/HP7
前 弓 ジョルティ:7/HP26
〈ラウンド1〉
張り詰めた空気の中で、最初に動いたのはトリシアでした。トリシアは落ち着いた様子で弓を取り、レイジャに向かって矢を放ちます。その矢は明らかに、レイジャの急所を捉えるような軌道を描いて飛んでいきました。
その矢が命中しようとしたその刹那、ディラが小さく吠えました。その瞬間、矢は突如として勢いを失い、その場に落ちてしまいました。
レイジャ「……ディラ、いつも助かる」
レイジャはそう呟き、ディラもまた小さく吠えました。……あれは、恐らく「絆の力」によって為せる技でしょう。真に忠義を誓った動物は、不可思議な力で主人の命を護ることがあると聞いたことが有ります。
続いて、クライブがレイジャに剣を振り下ろします。レイジャはこれを避けずに受けました。服の下に鎧を着ているのか、剣による傷はそれ程深くは入らなかったようです。
ノーティもその勢いに乗るように、シューティング・スターの魔法をレイジャに向けて放ちました。しかし、ノーティの手から飛ぶ火球は、レイジャの後方へと逸れてしまいました。
レイジャ「魔法使いか。もう少し、集中が必要だな」
レイジャ「……そしてお前、俺に当てるとは中々やるな。だが、まだ剣が馴染んでいないな」
レイジャはそう言うと、クライブに向けて剣を振りました。目にも留まらぬ速さで、剣はクライブに命中し、腹部に傷を作りました。
レイジャ「そして……人が攻撃されている時は、どこか安心してしまうものだ」
レイジャはそう呟くや否や、剣を持っていなかった左手で懐から取り出したナイフを、前にいたトリシア・ジョルティに向かって投擲しました。意表を衝かれた彼らも、それによって傷を負いました。
〈スキル:意識の外〉攻撃時、同じエリアにいる敵に対して範囲物理攻撃を行う。初回は命中率が高い。
次いで、ディラはトリシアに対して攻撃するような素振りを見せながら、大きく唸りました。トリシアは身構え、少し落ち着きを失ってしまったようです。
ティエはまず、ディラがかどのような能力を持っているのかを見抜こうとしました。しかし、ティエにはディラの情報は分かりませんでした。その後、落ち着きを取り戻そうとしていましたが、他の事……まあ恐らく金勘定のことに意識がいっているのか、それもできませんでした。
ジョルティも他の者に倣いレイジャに矢を放ちますが、レイジャが少し体を傾けると矢は後ろに逸れていきました。
レイジャ「よく見ろ。俺はここだ。よく見て当てるのが弓の基本だ」
〈戦況変化〉
前 クライブ:13/HP8(-8)
後 ノーティ:12/HP8
前 トリシア:12/HP14(-4)
前 レイジャ:10/HP20(-4)
前 ディラ:9/HP??
前 ティエ:7/HP7
前 ジョルティ:7/HP23(-3)
〈ラウンド2〉
次に動いたのは、クライブです。再びレイジャに向かって剣を振るいましたが、今度は命中させることができませんでした。
ノーティもティエに続いてディラの情報を得ようとしますが、こちらも上手く情報を得ることができませんでした。……得体の知れない犬です。その後、ノーティは様子を見ていましたが、落ち着きを取り戻すことはできていないようでした。
トリシアも先ほどディラに吠えられたせいか、少し手が滑ったようで、放たれた矢はレイジャの横を通り抜けて行きました。
レイジャ「……弓は手と手が触れる距離で射つものではないのではないか?」
レイジャはそんなことを言いながら、今度はジョルティに向かって斬りかかりました。クライブにしたのと同じように、目にも留まらぬ一閃がジョルティを鎧越しに大きく傷つけます。
ジョルティ「つああ!?」
そして、先ほどと同じように空いている左手から、ナイフが投擲されました。こちらも、再び前線にいたクライブ・トリシアを貫きました。
ティエ「っ……強すぎないですか!?」
私もこの時になって、少し危機感を覚え始めていました。いざとなれば、私も手を貸す事になるかも知れないと覚悟していた次第です。
さらに、ディラがクライブに向かって吠え掛かります。しかし、クライブはそれには動じていないようでした。
ティエはここで釣り竿を取り出し、レイジャに向かって釣り針を飛ばしました。しかし、全く見当違いの方向に飛んでいきました。レイジャは、俺が魚に見えるのか?などと笑っていました。
ジョルティは一旦弓を置き、素手で殴りかかります。攻撃を当てるつもりではない、フェイントのようでしたが、これも完全に見切られていました。
レイジャ「そうだ、この距離なら弓より素手が正しいな」
〈戦況変化〉
前
クライブ:13/HP2(-6)
後
ノーティ:12/HP8
前
トリシア:12/HP8(-6)
前
レイジャ:10/HP20
前
ディラ:9/HP??
前
ティエ:7/HP7
前
ジョルティ:7/HP16(-7)
〈ラウンド3〉
クライブは、集中してじっとレイジャの動きを見極めました。そして振るった剣は、再びレイジャの体を捉えます。鎧に弾かれたものの、傷を負わせることはできました。
ノーティはまたディラの情報を得ようと目を凝らしますが、ディラが犬であること以上のことは何も分かりませんでした。その後、ヒーラーとして危機に瀕した仲間を回復させるため、前線へと飛び出しました。
トリシアは突如として地面の砂を蹴り上げ、視界を遮った上で抜群の集中力でレイジャに向かって矢を放ちます。ついにトリシアの矢が、レイジャの体を捉えました。
レイジャ「ようやく当たったな。良いだろう、次はお前だ」
レイジャは、その言葉とは裏腹に、もしかすると動揺していたのかも知れません。レイジャの振るった剣を、トリシアは素早く回避しました。さらに、レイジャが放つナイフも、体の中心からは随分外れた場所に命中していました。
レイジャ「……浅いか」
ディラは、急に前に出てきたノーティに対して、激しく吠え掛かります。ノーティはその吠え方に一瞬怯んでしまったようです。
ティエはまたディラの情報を得ようと目を凝らしますが、またもや犬であること以上の情報は分かりませんでした。……もはやタダの犬ではないのでは?という疑念が私も含めた全員に漂い始めました。……いや、多分犬だとは思うんですけれども……。
ティエは不可解そうにしながらも、少しずつ落ち着き始めているようでした。
ジョルティは再び、素手でレイジャに殴りかかります。これもフェイントでしたが、今度はレイジャもそれに反応し、体を少し反らしました。ちょっとした、焦りのようなものが感じられます。
ジョルティ「動きが鈍ってきたぜおっさん!」
レイジャ「む……」
〈戦況変化〉
前
クライブ:13/HP1(-1)
前
ノーティ:11/HP7(-1)
前
トリシア:12/HP8
前
レイジャ:9/HP15(-5)
前
ディラ:9/HP??
前
ティエ:9/HP7
前
ジョルティ:7/HP16
〈ラウンド4〉
ここに来て、クライブもディラのことが気になり始めたようです。ティエとノーティに続いてディラのことを観察しますが、クライブからも犬である以上の情報が分かりませんでした。ディラは複数の視線を感じたせいか、グルルルと唸っていました。
その後、クライブはレイジャに向かって斬りかかります。本来のレイジャであれば避けていたような攻撃でしたが、落ち着きを失いかけていたレイジャは避けることができませんでした。傷はあまり深くないものの、命中したことは確かです。
そして、トリシアもディラのことをじっと見つめました。……しかし、トリシアもこの犬の情報が分かりません。もはや私も恐ろしくなってきました。(見識目標値8に続々と失敗する旅人達の間に、ディラ神話生物説が持ち上がり始めました)
トリシアは、ディラのことが分からない八つ当たりかのようにレイジャに向かって矢を放ちます。この矢が、真っ直ぐとレイジャへと飛び、鎧の上から肩へと命中しました。この一撃が、かなりの痛手となったようです。レイジャの息が上がり始めました。
ノーティは、息も絶え絶えになっているクライブにハーブを使って治療を行いました。クライブはとりあえず死地を脱したようです。
ノーティ「誰も死なせない!」
ディラは、弱っているレイジャの姿見て、クゥンと小さく鳴きました。そして、意を決したようにレイジャと彼らの間に入り、身の守りを固くしました。
レイジャ「……ディラ」
レイジャ「コイツの期待に、応えなければなるまい。邪魔だ、ヒーラー」
語気を強めるレイジャでしたが、傷で握力が弱っていたのでしょう。ノーティに剣を命中させたものの、大きな傷を与える事はできませんでした。投げたナイフも、ジョルティの鎧にしか当たりませんでした。
レイジャ「……これでは、期待に応えられないか」
ティエは三度、ディラの情報を得ようとその姿を見つめましたが、その犬がディラのことを慕っていることぐらいしか分かりませんでした。諦めて釣り竿でレイジャに向かってフェイントを行いました。弱っているレイジャは、その糸の動きにすら、少し心を動かされているようでした。
ジョルティはレイジャに向かって矢を放ちます。確かにレイジャを捉えていたその矢は、飛び出したディラの体で遮られました。
〈戦況変化〉
前
クライブ:13/HP8
前
ノーティ:11/HP5(-2)
前
トリシア:12/HP8
前
ディラ:9/HP??(-3)
前
ティエ:9/HP7
前 レイジャ:8/HP7(-8)
前 レイジャ:8/HP7(-8)
前
ジョルティ:7/HP16
〈ラウンド5〉
クライブはまたしてもディラをじっと見つめますが、やはり犬であることしか分かりません。……戦況は優勢ですが、情報戦ではこの犬の一人勝ちですね。
気を取り直してレイジャに攻撃を行いますが、鎧がダメージを軽減させてしまい、倒すには至りませんでした。
そして、ここに来て遂に、トリシアがディラを見つめたことで彼の犬の情報を掴むことに成功しました。
トリシア「この犬……忠犬!」
……皆が分かりきっていることを高らかに言ったようにも見えますが、まあ、一応フォローしておきますと、「忠犬」というのは極めて高い忠義によって特殊な力を得たペットのことです。まあ、絆の力を持つ以外は犬なのですが……。
ジョルティ(嘘つけ、絶対ティンダロスだろ!)
ティエ(真偽判定が必要)
トリシアはようやくディラのことが分かり気が抜けたのでしょうか。レイジャに放った矢は命中しましたが、威力が足りず鎧に弾かれてしまいました。
ディラは再び、レイジャの間で身を固めています。心配そうな鳴き声に、レイジャの表情が歪んだように見えました。
ティエは再び釣り竿でレイジャの注意を引きます。もはや、これほど露骨な注意逸しにも、対応ができなくなっていました。
レイジャ「……まとめて送ってやる」
レイジャはこれを最後の一撃と決めたのでしょうか。渾身の力でジョルティに向かって剣を振り下ろしました。レイジャの剣はジョルティの鎧を貫き、その肌に傷を追わせます。そして……左手から放たれたナイフは、クライブ・ノーティ・トリシアの体を貫きました。
ノーティは血を失いすぎたのか、この攻撃で気を失ってしまいました。
レイジャ「眠っていろ、ヒーラー……これなら、まだ」
ジョルティは、今度こそレイジャに止めを刺そうと矢を放ちますが、またも間に入ったディラに止められました。ディラは素早い動きで、その矢を空中で咥え取っていました。
〈戦況変化〉
前
クライブ:13/HP3(-5)
前
ノーティ:11/HP0(-5) 気絶
前
トリシア:12/HP3(-5)
前
ディラ:9/HP9
前
ティエ:9/HP7
前 レイジャ:7/HP5(-2)
前 レイジャ:7/HP5(-2)
前
ジョルティ:7/HP12(-4)
〈ラウンド6〉
クライブ「これで終わりだ……!」
クライブは、これまでの彼からは考えられないような威勢の良い声でそう言うと、レイジャに向かって斬りかかりました。クライブの剣は、確かにレイジャを捉えます。そして、遂にレイジャを戦闘できない所まで追い詰めることに成功しました。
レイジャ「……逃げろ、ディラ」
そう言って、レイジャは気を失い、その場に倒れ込みました。
ディラは、そんなレイジャに近付き、そっと傷を舐め始めました。もう、敵意はないようです。
《戦闘終了》
クライブ「……ノーティ、無事か」
武器を収めると、クライブはまずノーティに水を飲ませて介抱しました。それほど深い傷ではなかったノーティはすぐに意識を取り戻します。
ノーティ「私は……皆は無事ですか!?」
クライブ「とりあえずは、な」
ノーティが目を覚ました頃、トリシアは荷馬車からロープを取り出してレイジャを捕縛していました。ディラはその動きに警戒を払っているものの、動くことなくじっと様子を見ていました。
ジョルティはその間に、洞窟の中を探し始めました。捕虜となった盗賊や、レイジャの言うように、洞窟の中にはゴレンから盗んだ銀製品のようなものは見当たりません。見つかったのは酒が5瓶と、保存食が5つ程だけでした。
目を覚ましたノーティは、とりあえず傷の深いもの達を中心にキュアタッチで傷を治していきました。一先ず、これで安心と言った所でしょうか。……しかし、レイジャは間違いなく強敵でした。彼らが戦った中でも、群を抜いていたと思います。
クライブ「さて、どうする。まずはレイジャを起こすか?」
ジョルティ「酒ならあったよな」
トリシア「ある」
トリシアは、レイジャの頬を叩きながら、取り出した酒を飲ませます。レイジャはそれで、ハッと目を覚ましました。
レイジャ「……まだいたのか、お前ら」
トリシア「そのまま死んだらおめーのワンワンが可愛そうだろぉ!?」
レイジャ「…………それは、そうだな。礼は言っておこう」
ジョルティ「訊きたいことがある」
レイジャ「あれ以上、何が訊きたい」
トリシア「なんで盗賊なんかやってんだ。おめーだったら真っ当に活躍できる素質あるだろ」
レイジャ「……過大評価だ。俺はただの盗賊だ、それ以上でもそれ以下でもない」
ジョルティ「隠していることを全部話してくれ」
レイジャ「隠していることなど、ない」
ティエは、再びレイジャが嘘をついていないか、じっとその様子を観察しました。今度は、レイジャが嘘をついていることが見て取れました。そして同時に、「本当のこと」を話すつもりがないことも分かりました。
レイジャ「お前達が望むことは何だ。俺の素性を知った所で、どうする?」
ジョルティはその言葉を聞いて、矢尻をディラの首元へと当てるような動きをします。レイジャは少したじろいだようでしたが、すぐに落ち着きを取り戻しました。
レイジャ「……ディラを殺しても、俺が話すことはない」
クライブもまた、レイジャの前に座ってその目を見据え、同じように本当のことを聞こうとしましたが、レイジャは頑として譲らず、首を横に振りました。
トリシア「……ま、聞いても無駄か」
トリシアはそう言うと、レイジャの腹を殴りつけました。レイジャはそれにより、再び気を失ってしまったようです。ディラがその様子を見て激しく吠えていましたが、トリシアが冷たい目でディラのことを見ると、鳴くのを止め、荷馬車に積み込まれるレイジャの傍に寄り添うように移動しました。
トリシア「ま、とりあえず疲れたし、今日はここで休もう。丁度、こいつらのアジトもあることだし」
〈狩猟判定:山:目標10〉
ジョルティ:14(食料4)
〈野営チェック:アジト:目標8〉
ティエ:7(サポート成功)
トリシア:9
アジトの中は暖かく、外に比べて整備がされていたため、ゆっくり休む事ができました。朝になると、暑くも寒くもない、そこそこ歩きやすい天候になっていました。
……その後彼らは、1日ほど山道に迷ったものの、特に大きなトラブルに見舞われることもなく、ゴレンの町まで戻る事ができました。
ゴレンの町に到着すると、丁度広場にはディストやニーナさん達が集まっていました。何人かは武装をしており、穏やかな様子ではありません。
囲みの中にいたニーナさんが彼らの帰還に気がつくと、驚いたような顔で手を振ってきました。疲労から誰も手を振り返すものはありませんでしたが、私もとりあえず蒼の竜人・リーズさんに向けて手を振っておきました。
ニーナ「ディストさん!帰って来ましたよ!」
ディスト「おお……!帰ったか!帰りが遅いもんでな、捜索を出そうとしていた所だった」
ティエ「ええ、なんとか。ボスも捕まえてきましたよ」
ティエはそう言うと、荷馬車からレイジャを降ろしました。レイジャはすでに目をさましており、外が眩しそうに目を細めました。
レイジャ「……ゴレンの村か。まあ、そうか、俺を連れてくるなら、ここだろうな」
ディスト「コイツが銀針の蠍の首魁か……?随分……思っていたのと雰囲気が違うな。賊のようには見えん」
ティエ「ええ、私達もそう思ったんですけど……何も喋ってくれず」
レイジャ「……こいつらの言うことは嘘ではない。確かに俺が銀針の蠍だ」
ティエ「とまあ、こんな具合でして」
ディスト「そうか。いや、まあ分かった、疑ってるわけじゃない。まさか本当に賊を捕まえてくれるとはな!今日は疲れているだろう、約束通り料理も用意しておいた。コイツは一旦牢に入れておく、今日は休んでくれ」
そう言うと、ディストはレイジャを担ぎあげました。レイジャも、特にそれに抵抗はしません。ディラも、それに着いて行きました。
ニーナ「そういえば、貴方達が出かけた翌日に、また村に賊が来ていました。ディストさんと私達で、捕まえてあります」
ティエ「あー、やっぱりそっち行っちゃってたんですね」
トリシア「とりあえず、つかれた。宿いって、ねよう」
ティエ「確かに疲れました」
そうして、クライブ以外の皆は、休むために宿へと向かいました。クライブはというと、まだ気になることがあるらしく、ディストと共にレイジャの牢へと着いて行くことにしたようです。
恐らく、宿に帰った人たちが何かをするということもないでしょうから、私もクライブに同行することにしました。
ディスト「ま、心配する気持ちは分かる。それぐらいは問題ないだろう」
クライブ「助かる」
レイジャを牢に入れると、ディストは程なくして出て行きました。
そして、牢に捉えられたレイジャと、クライブの2人だけが残されました。
暫くは2人とも黙っていましたが、先に口を開いたのはレイジャでした。
レイジャ「物好きだな、お前も。俺のことがそんなに気になるか」
クライブ「気になるな、その目が」
レイジャ「既に言ったことだがな、話すことはもう何もない」
レイジャ「だが……そうだな、俺のポーチを持っていけ」
レイジャはそう言って、牢格子の方へと近寄りました。クライブは言われた通りに、腰についていたレイジャのポーチを取り外し、手に取りました。
レイジャ「話すことは何もない。宿に帰ってから開けることだ」
クライブ「……そうか、分かった」
そうして、クライブはレイジャのポーチを手に、宿へと戻ることにしました。宿に戻ると、日誌を書いていたノーティ以外の者は、既に寝てしまっていたようでした。(実際2人以外のPLはここで寝ています)
ノーティ「何ですか、それは」
クライブ「ちょっと、な」
クライブはノーティの前で、レイジャのポーチを開けました。ポーチの中には、銀で作られた、細かい装飾の入ったナイフが一本入っていました。
そのナイフの柄の部分には「カランド・アージェント」と名前が刻まれています。
クライブ「アージェント……これは確か、都市の名前だったな」
ノーティ「アージェントはゴレンから西にある都市ですね。……確か、人口は2万人程、周囲は森に囲まれていて雪が降りやすい気候で、高品質な材木の輸出で収入を得ていたはずです」
クライブ「アージェントか……ここへ行けば、あいつの事情も分かるかもしれんな」
ノーティ「ですね。ともかく、この町が盗賊に狙われることも、これで当分はないでしょう」
そんな話をして、クライブとノーティもまた眠りに就きました。銀を狙う盗賊団を巡る話は、まだもう暫く続くのかも知れません。……彼らが、どこまで真相を追うのかは、分かりませんが。
第四話後編「翅蟲の正体」 了
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こうして盗賊団を倒した彼らは、次なる謎へと辿り着いたのでした。私もただの盗賊だと思っていましたから、こんな展開になるとは思いがけませんでした。
如何でしたか、竜の君?どうやら、今回は多少満足して頂けたようですね。
続きが気になりますか?次もまた、このゴレンを巡る物語です。カナセに比べて、ここは刺激的な場所ですね。
退屈はしませんが、できれば山登りはこれぐらいにして欲しいところです。
……運動不足だ、ですか。いやあ、ほとんど寝て過ごしている竜の君ほどでは、ありませんよ?
【MVP:ジョルティ】
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こちらは、2016/6/3に行ったオンラインセッションのリプレイです。
初めての「ボス戦」ということもあり、今回は戦闘の様子をより詳しく記載してみました。今後も、ボス級の相手と戦う時だけは、このような記載方式を取ろうかと思います。
画像でポジション表示などをしようと思いましたが、(面倒)かえってゴチャゴチャしてしまいそうなので止めました。
今回のボス「銀針の蠍レイジャ」は、ルールブック記載の「高レベル盗賊」を参考にしながら、ステータスやオリジナルスキルで難易度を調整しました。
狙い通り、「そこそこの苦戦」をしながら「勝利」させることが出来、良いバランスだったと思います。問題があるとすると、少々長引いてしまったのでプレイヤーが疲弊したところでした。(この戦闘、2時間ぐらい掛かってます)
ちなみに、リプレイでは割愛しましたが、ディラは見識判定に失敗する度に英語で喋るという、謎のキャラになっていました。恐るべし深夜のテンション。
それでは、また次回お会いできれば幸いです。
【参考サイト】
PCの人数が多めのパーティーで白熱した戦闘をしようとすると、バランスが大変ですね。それにしても、敵も味方もしっかり活躍していて盛り上がりのあるボス戦でした。
返信削除第5話は戦闘をちょっと視聴しましたが、何やら妙な事になってそうですね。リプレイを楽しみにお待ちしています。
コメントありがとうございます!この第四話までは戦闘が全く張り合いのないものだったので、何とかしたいと思ってのボス作成でした。後は、長引き過ぎないようにする必要がありそうですが、こちらはセッションを分割することで対応しようかなーという次第です。
削除第五話もご視聴頂いていたとは……本来はプチシナリオの予定でしたが、結構メインに絡む内容になりました。今週はセッションがない予定なので、リプレイはまた週末あたりになりそうです。