少し遅くなってしまいました、申し訳ありません。
……どうしたんですか?渋い顔でいらっしゃいます。季節の竜も体調不良になったりするんですか?
まあ、少しぐらいは大丈夫でしょう。前回の続きから始めますよ?
……大丈夫ですか?
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第五話後編「黒き鱗粉の誘い」
前回は、そうですね、確かトリシアがディストから鍛冶の技術を習うことを約束したところまでお話しましたね。
ディストはトリシアに約束をした後、「もう一つ伝えておかなければならないことがある」と続けました。
ディスト「実は、今日の講義試合は戦意高揚だけが目的じゃなくてな。お前達に頼み事をできるかどうか、見極めるのも理由の一つだった」
ディスト「鉱山からな、帰ってこない連中がいるんだ。こんなことは今まで無かった。1人が行方不明になって、捜索に出した奴も1人戻ってきていない」
ディスト「……盗賊を倒してもらった上に、こんなことを頼むのは度が過ぎているかも知れないが……鉱山の中の様子を見に行ってはくれないだろうか。無理にとは言わない、持ち帰って考えてくれ」
トリシア「おっちゃんが私らならいけると思って言ってるんだろうし、ちゃんと皆に伝えとくよ」
ディスト「……助かる」
そうして、トリシアは一度宿に戻ることにしたようです。技術を学ぶ約束ができて喜んでいるようでしたが、その後の依頼のこともあってなんとも言えない表情になっていました。
トリシア「ただいまー」
ジョルティ「鹿はちゃんと処理すれば美味いよな」
トリシア「血抜き大事」
……?何故突然そんな話になっているんでしょう?人間も何を考えているのかイマイチ分かりません。
トリシア(かくかくしかじかのうみそこねこね)
一通りジョルティと鹿の処理について話を終えると、トリシアは先程ディストから頼まれたことについて皆に伝えました。
クライブ「……さて、どうしたものか。人が消える、か。どう考える?」
ジョルティ「盗賊の一件といい、何かキナ臭いよなこの街の周り」
トリシア「どうもこうも、世話になってるし行けってこったろ」
ジョルティ「この子身も蓋もない」
トリシア「断ってまで街に居座れる?」
ジョルティ「いや、でも俺ら救世主ですし?」
クライブ「……まあ、世話になっている分、労働で返すのが筋だろうとは思うが。俺達のできる労働で、な」
トリシア「断って居座るぐらいだったら本格的に弟子入りするよ」
ジョルティ「それもそうだが、どうも外から何かしらの干渉を感じないか?裏があるというか、考え過ぎかもしれないけど」
トリシア「あるんじゃないの。込み込みでやるしか解決しなさそう」
ジョルティ「盗賊の持ってた銀のナイフの件、とりあえずおっちゃんにも一度聞いておいた方がいいかもな」
トリシア「そうね、聞きに行こうか」
クライブ「そうだな……それでは、受けるということでいいか?」
ジョルティ「もう関わっちまったしな、虎穴にいらずんばだ、俺はいいぜ」
クライブ(本当に知力4か……?)
なんだかんだで、意見はまとまったようです。
鉱山の依頼は受けることに決め、それとは別に「カランド・アージェント」と記された銀のナイフについて、ディストに聞きに行くためにトリシアを先頭に再びディストの工房へと向かって行きました。
ディスト「おや、どうした?何か訊きたいことでもあったか?」
クライブ「すまんな、少々聞きたいことができた」
クライブ(魔法の呪文かくかくしかじか)
ディスト「なるほど……?そのナイフってのは、見せてもらっても良いか?」
クライブ「ああ、これだ」
クライブはそう言って、ポーチから銀のナイフを取り出してディストに渡しました。
ディストはナイフを受け取り、色々な方向からじっくりと観察し始めます。
ディスト「……こいつは……俺の作ったナイフだな」
ディスト「もう何年前になるか、アージェント伯からの依頼で作ったものだ。正確にはこれ1本じゃなく、5本程同じものを作ったはずだが……」
クライブ「アージェント伯、ね…‥」
ジョルティ「これは例の盗賊の頭が持ってたもんなんだぜ、そのアージェント伯って何者なんだ?」
ディスト「アージェント伯はここから西に行った場所にある都市の領主だ。そのナイフは伯爵の使いに頼まれて作ったもので間違いない。あまり使われちゃいないようだが……」
ジョルティ「この町とその都市とは不仲だったりするのか?」
ディスト「いや?そんなことは全くない。直接依頼が来るぐらいだからな。ウチからは銀製品を、向こうからは材木なんかを仕入れているし、お互い利のある関係だ」
ディスト「ここんところは少々材木が高くなっちまって、あまり取引はしちゃいないが……特別敵対してるようなことはないぜ」
ディスト「こんなもんでいいか?これは返しておく、もう俺のものではないからな」
ディストはそう言って、クライブにナイフを返しました。
トリシア「あのおっさんがわざわざ何も教えずにこれだけよこすってことは、なんかしらあるんだろうけども」
クライブ「……まあ、胡散臭い話になってきたのは確かだな」
ジョルティ「うーん、これは落ち着いたら一度直接本人に聴きに行く必要があるかもな」
トリシア「そうね」
ジョルティ「とりあえず、ディストのおっさんはシロだな」
トリシア「疑ってたんだ」
ジョルティ「そりゃね」
ディスト「なんだ、穏やかじゃないな。まあ、そりゃ奴が俺の作ったナイフを持ってたら疑われても仕方ねえか」
クライブ「まあ、この件はまた考えるとして……もう少し、鉱山の件について教えてもらえるか?」
ディスト「鉱山のことか、どこから話せばいいか……お前達が丁度盗賊狩りに山に入ってる間にな、鉱夫が1人、夕方になっても帰ってこないことがあった」
ディスト「こんなことはこれまでに無かったからな、翌日に急いで捜索を出したんだが……捜索に出した奴の内の1人も、戻ってこなかった」
ディスト「何が起こってるのか、全く分からんが……これ以上無闇に犠牲を出すわけにもいかない。とりあえず鉱山を封鎖して、対策を考えている所だったんだが……このまま手をこまねいているわけにもいかん」
トリシア「銀狙いの盗賊団だし、残党とかの可能性もありそうね」
ディスト「ああ、それも考えられるが……鉱山での事故として最初に疑うのは落盤とガスだな。落盤のような音は無かったから、ガスが怪しいんじゃないかと思ってるが……」
トリシア「あのクレイジー達(ニーナとクレール)には話してんの?」
ディスト「いや、話していない。今回の講義試合で、勝ったほうに頼むつもりだったからな」
ジョルティ「ちなみに、その鉱山に今までモンスターとかの目撃情報は?」
ディスト「ちょっとした奴らは見かけたことがあるが……俺じゃなくても対応できるぐらいの奴らばかりだな」
トリシア「よっぽどの事故以外で帰ってこなかったのは初めてなんだっけ?」
ディスト「ああ、過去に一度落盤があったが……もう十年以上前だ。死者が出るようなことはもう長いこと起こしちゃいない」
ディストはそう言うと、その後に小さく「まだ死んだとは限らない……が」と付け加えました。
トリシア「盗賊団も今まで町にしか攻めてきてないいんだっけ」
ディスト「そうだな、街にしか来ていない。積極的に人命を狙ってくるようなこともなく、銀以外には興味がないようだった」
トリシア「銀山……ねえ」
クライブ「……結局のところ、直接向かうしかないわけか……」
ディスト「頼まれてくれるか?」
ジョルティ「俺は構わないぜ」
クライブ「……乗りかかった船だ」
ディスト「分かった、助かる。それなら、少し渡すものがある、待っていてくれ」
ディストは頭を下げると、工房の奥の方へと下がっていきました。そして、程なくして鳥籠を手にして戻ってきます。鳥籠には黄色い(私の化身の次に)可愛らしい小鳥が入っていました。
トリシア「あらかわいい」
ジョルティ「鶏肉か!?食べられる奴か!?」
ディスト「こいつはカナリアと言ってな、空気の変化に敏感な鳥だ。ガスなんかが出ている時には、人間よりも先にコイツが気付いて知らせてくれる。……まあ、お守り代わりだ、持って行ってくれ」
ディストが鳥籠を突き出すと、少し嫌そうな顔をしながらクライブが受け取りました。何やら、鳥の声が人の声に聞こえる、というようなことを言っています。正気を失っているんでしょうか?
ジョルティ「ちなみに鉱山のガスは有毒?可燃性?」
ディスト「可燃性で有毒だが、この鉱山で出た記録はないな。あくまで鉱夫のお守りとして連れて行ってくれ」
ジョルティ「戻ってきたら焼いていい?」
ディスト「食う場所ないぞその鳥。他のを用意させる」
ジョルティ「まじかよー」
クライブ「……まあ、鳥のことはおいておこう。明日出発する、我々は一度宿に戻って準備を始めることにしよう」
ディスト「……宜しく頼む」
こうして彼らは、カナリアの鳥籠を受け取って宿へと戻りました。その後、このカナリアが夜通し鳴いていたのはまた別のお話です。
一夜明けて翌日になりました。皆はまず広場に集まり、ディストが来るのを待つことにしました。ここで、昨日は失くしたお金を探して前の宿に残っていたティエが合流しました。……逆にパワーは起きてきませんでした。ノーティは変わらず読書に勤しんでいるようです。
(今回はここまでとここからで分割しました。そのため、PLの参加状況に違いがあります)
ジョルティ「おはよー」
トリシア「おはゆー」
ティエ「ベッドの隙間に見つからなかった銀貨がありましたよ!」
〈コンディションチェック:2日目〉
クライブ:8
ティエ:6
トリシア:9
ジョルティ:6
ジョルティ「カナリアマジプリティ」
ともすれば睡眠妨害になりかねなかったカナリアですが、ジョルティは随分と気に入っているようです。
そうこうしていると、広場にディストが近付いて来ました。
ディスト「おはよう、準備はいいかな。鉱山は今封鎖してあるからな、準備ができたら俺と来てくれ」
トリシア (
˘ω˘)
ディスト「弟子起きろー」
トリシア「ウッス」
ディスト「よし、それじゃあこっちだ。封鎖を解こう」
そうしてディストは彼らを連れて、鉱山の前まで移動しました。鉱山の入り口は鎖で封鎖されており、入ることができない状態になっています。
ディストはポケットから鍵束を取り出して鉱山の入り口の鎖を外し、鉱山は入れる状態になりました。中はほとんど真っ暗で、先が見えません。足元も荒れていて、歩きにくそうです。
困りました、暗い場所では鳥になると目がよく見えませんが、歩いて行くのは疲れそうです。カナリアの鳥籠にでも紛れ込むのが良いでしょうか……?
ジョルティ「暗いな……灯りはないのか?」
ディスト「普段は灯りがついているんだが、ここ数日は入っていなかったからな……燃料切れだ」
ジョルティ「そうか……まあとりあえずこれで照らすか。無いよりはマシだろ」
ジョルティは背負っていたバッグからランタンを取り出し、燃料を注いで火を付けました。それほど強い光ではないものの、ぼんやりと先が見える程度にはなりました。
〈移動チェック:ランタンで照らした暗い坑道:目標10〉
クライブ:12
ティエ:7(失敗)
トリシア:9(失敗)
ジョルティ:Fumble
ジョルティは暗さから、歩きながらそこら中に体をぶつけていました。終始「ランタン付けたの俺なのに……」と不満顔でした。それ以上に全身痛そうでしたが……。ティエとトリシアも、足を取られてかなり疲労していたようです。
〈方向チェック:ランタンで照らした暗い坑道:目標10〉
トリシア:6(サポート成功)
ティエ:6(失敗)
暗く枝分かれした道のせいで、一行は坑道の中で迷ってしまい、奥まで到達することが出来ませんでした。予定とは違っているものの、ここで休んでいくようです。ジョルティなどは、「かえって良かった」と安心している様子でした。
〈野営チェック:ランタンで照らした暗い坑道:目標10〉
ジョルティ:6(サポート成功)
トリシア:11
暗く狭い坑道の中ではあるものの、キャンプの設営には辛うじて成功したようです。食事は持ち込んでいた美味しい保存食を食べていました。カナセで作った干魚でしょうか?
日が昇ったのかどうかは、ここでは分かりませんが、おおよそ一晩経っただろうという頃に、再び出発することにしたようです。
〈コンディションチェック:3日目〉
クライブ:11(絶好調)
ティエ:4
トリシア:9
ジョルティ:9
長い時間この闇の中で過ごしたことで、皆はある程度目が慣れてきたようです。私は相変わらず化身をすると全く何も見えませんでした。どうにも不便な目ですね。
〈移動チェック:目の慣れた闇の中の坑道:目標8〉
クライブ:4(失敗)
ティエ:11
トリシア:8
ジョルティ:6(失敗)
体調の良さそうなクライブでしたが、闇に目が慣れきっていないのか、昨日とは打って変わって上手く歩けていませんでした。ジョルティも相変わらず体を打ちながら歩いています。……山の上は得意だったんですけどね、中はダメなんでしょうか?
ジョルティ「よし、この鉱山危険だから一生封鎖しよ。帰ろっか」
歩きながらジョルティは1人でそんなことを言っていました。数時間歩くと、坑道が開けた場所へと繋がっているのが目に入ってきました。何があるのかまでは暗くこの距離空ではまだ見えません。
しかし、その時、急に籠の中のカナリアが鳴き始めました。……かと思うと、ひとしきり鳴くと何事もなかったかのように静かになり、それまでと同じ状態に戻りました。
ジョルティ「松明投げ入れて帰ろうぜやっぱり。嫌な予感しかしない」
ティエ「他に道も無さそうですね……」
ジョルティ「とりあえず、臭いがないか確認してみるか……」
〈捜索判定:敏捷+知力:目標6〉
ジョルティ:15
ジョルティが鼻を利かせると、広間になっている方向から甘い香りのようなものが漂っているのが分かりました。花の香りのような……どこか心地よくなりそうな香りです。
〈???:精神+精神:目標7〉
クライブ:リーダースキル発動(判定+1)
ジョルティ:6→7
クライブはジョルティが香りを嗅ぎすぎていると感じ、咄嗟に広間から遠ざけるように引っ張りました。そのお陰もあり、ジョルティは特に体に異常を来たしてはいないようです。
トリシア「なんかやばそう?」
ジョルティ「甘い香りがしたな……吸い込んだら不味い、もといマズいタイプだ」
クライブ「……嫌な予感は正解ってことか」
ティエ「可燃性で毒性があるんでしたっけ?」
ジョルティ「いや……ガスではないと思う」
ジョルティはそう言うと、少し考えてからポーチの中に押し込んでいた寝具を取り出しました。(凄い圧縮率だなあ、と思いました)。すると取り出した寝具を持っていた解体用のナイフで手のひらに乗る程度のサイズに切り、そこに水袋に入っていた水を掛けて簡易なマスクを作成しました。何とも手際が良いというか、器用なものです。
ジョルティ「気休めだけど」
トリシア「なんかくさそう」
ジョルティ「はあ!?お前の分は知らん!」
トリシア「うっす」
ジョルティ「一言多いからお前は男がさあ!」
トリシア「まあ進もうや」
ジョルティ「聴けや!」
トリシア「出たら聞いてやっから」
何というか……仲良く喧嘩する、というのはこういうことを言うのかもしれませんね。鉱山の奥に辿り着いたというのに、呑気というか何というか……。
トリシア以外のは皆ジョルティの作ったマスクを付けて、奥の広間へと進んでいきました。
ジョルティはトリシアのために作ったマスクをその場に捨てていきましたので、もったいないと思い私が付けることにしました。まあ、竜人にあんなものが効くことはないのですが……。
〈スキル:闇色の鱗粉〉
嗅いだものを魅了する甘い香りの魔法の香
精神+精神:目標7に成功しなければ、使用者に対して攻撃を行うことができない
〈闇色の鱗粉:精神+精神:目標7〉
クライブ:8(対抗)
ティエ:18(対抗)
トリシア:8(対抗)
ジョルティの作ったマスクは魔法の香には効果がなかったようですが、誰一人として魔法の香に魅了されるものはおりませんでした。ティエに至っては、もはやただ単純に良い香りがするものとして何度も鼻を鳴らしていました。
ジョルティ「この甘い匂い気に入ったの?」
ティエ「いや……別に……」
ジョルティ「まあ、体には気をつけてな。無害ではないから絶対」
ティエ「まぁ、酸っぱかったり臭かったりよりは良いですが……」
トリシア「ノーティがいればなんだか分かったんかねえ」
そう言いつつも広間へと歩を進めて周囲を見渡すと、壁際には2つの人影が見えました。共に手足を縛られて倒れており、意識はないようです。ですが……とりあえず命に別状はありそうではありませんでした。恐らく、この魔法の香を吸い続けたことによって意識を奪われているのでしょう。
そして、その広間に人影はもう1つ存在していました。
こちらから見て真正面、広間の最奥に位置する場所に、黒い法衣を着た小柄な女性が立っています。暗いために顔は良く見えませんでしたが……目だけは、緑色に淡く光っていました。
彼女はこちらを認めると、微かに目を細め、右手を懐の中へと入れました。何かを握っているような様子が見て取れます。
同時に、私も含めてこの場にいる全員に、「頭の中に直接響くような声」が聞こえてきました。
頭に響く声《……誰だ?立ち去れ、立ち去るならば、危害は加えない》
ジョルティ(こいつ頭の中に直接!?)
クライブ「こいつ直接脳内に……!)
ジョルティ「いや、危害加えてるのはお前なんだよなぁ」
トリシア「何してんの」
ティエ「そこのおっさん2人返して下さい。労働力なんです。ついでにここ仕事場なんで出てって下さい」
……頭の中に声が響いていることについては、もう気にしていないようです。順応力の高さは、旅人の必須要件なのかも知れません。
頭に響く声《関わりのないことだ。彼らもじきに街に返す。引き返せ》
頭に響く声《……しかし、まだ人を送り込んでくるか。存外無茶をするな、ゴレンの者も》
トリシア「無茶なの?」
ジョルティ(体調悪いんで俺は帰っても良いけど)
頭に響く声《さあな。立ち去らないなら、排除するしかない。》
トリシア「あっ、はい」
ティエ「……参考までに、占拠と誘拐の目的を聞いても?」
頭に響く声《我らを倒してから聞くが良い。我らを倒せるならば、話してやろう》
ティエ(複数形……?)
ジョルティ(我らって……?)
トリシア「教えてくれる分、あのおっさんよりマシじゃね」
クライブ「……問答無用か、やむを得まい」
頭に響く声《来るか……。勇敢なことだ。我はヴェルガ、黒鱗の蝶の刃》
トリシア「ちょっと名前カッコつけてない?」
頭に響く声《主の趣味だ》
トリシア「ちょっとその上司に付いて行くのはどうかな……?」
ティエ「どっかの蠍と関連があるのかな」
頭に響く声《……蠍、蠍を知っているのだな。……いや、奴のことだ、何も話してはいないだろう》
トリシア「同僚っすか」
頭に響く声《同僚か、似たようなものだ》
トリシア「良さ気な条件ならそっちに付いてもいいのかなぁ、とか思ったり?」
頭に響く声《断る。信用できん》
トリシア「信用できなかった要素が分かんねえ!」
ジョルティ「もう少し省みろ?」
クライブ(まあ当然という顔でトリシアを見ている)
頭に響く声《誰であろうが、初めて会った相手を信用できるものか。信用を得たいなら、それなりの方法があるだろう?》
トリシア「んで、うちらを殺すの?引くわー」
頭に響く声《殺す?我らがお前達をか?》
トリシア「えっ、違ったのか」
頭に響く声《お前達の生死になど興味はない。ここ引くのか、引かないのかだ》
トリシア「鉱夫持って帰って良い?」
頭に響く声《じきに返すと言っただろう》
ジョルティ「交渉下手か!ちょっと煙草でも吸ってて!」
トリシア「いいよ?」
ジョルティに押しのけられて、トリシアは素直にそれに従い煙草を吸い始めました。……過敏に反応したカナリアが鳴き始めたため、ティエが鳥籠を遠ざけていました。
ジョルティ「お姉さんちょっと待ってて、作戦会議するから。とりあえず休戦協定ね」
頭に響く声《用が済んだら帰ってもらえないかね……?騒がしいな……》
この状況でもいつも通りの彼らに、相手すら呆れている様子でした。……まあ、これが彼らの良いところでもあるのですが。
ティエ(とりあえず……相手の情報が欲しいですね)
作戦会議と称して車座になった彼らの中で、ティエがさり気なく黒衣の女の方を観察しました。戦闘に入る前に、情報を得ておきたいようですね。彼は比較的冷静なようです。
〈知見判定:目標8〉
ティエ→17
ティエの観察によると……黒衣の女は感情のこもっていないような目でじっと彼らの方を見つめていました。右手は懐に入れており、その先で「匕首」のようなものを握っていることが分かったようです。また、何か魔法の力が働いていることも分かりました。
ティエ「……という感じみたいですよ。もし戦うなら、ですけど」
ジョルティ「魔術師系かね?……4人で畳み掛ければ伏兵数人ならいけそうか?」
頭に響く声《まだ居座るのか?》
トリシア「鉱夫返して話聞かせてくれたら帰るよ」
頭に響く声《つまりは、やるしかないということだな》
ジョルティ「義理はないけどね、無関係ではないし、雇われなんでな。鉱夫は返して貰う」
頭に響く声《……帰ってくれれば、こちらとしても楽だったのだがな》
クライブ「……まあ、そういうことだ」
クライブが真っ先に剣を抜き、他の者達も皆武器を構えました。黒衣の女も、懐から匕首を取り出して、前に構えます。匕首は、この暗い空間の中でも微かに光っている用に見えました。
《戦闘開始》
広間は十分な広さがあり、横に広がって戦うことにも問題がなさそうです。そこら中に大小様々な石が転がっており、壁際には2人の鉱夫が縛られて倒れています。
〈イニシアチブチェック〉
前
弓 15 ジョルティ HP7
前
短 12 黒衣の女
HP???
前
短 10 ティエ
HP16
後
弓 9 トリシア
HP21
前
剣 5 クライブ
HP9
〈ラウンド1〉
最初に動いたのは、体の調子は極めて悪そうなのにも関わらず、やたらと落ち着いていたジョルティでした。ジョルティは構えた弓を黒衣の女に向けて、文字通りの鏑矢を放ちます。
しかし、黒衣の女は構えから射線を見きったのか、最小限の動きで矢を避けました。
ジョルティ「あれぇ?やっぱこの弓ポンコツか?銀だから無駄にしなってるのか?」
頭の中に響く声《……弓はその距離で扱うものではないのではないか?》
トリシア(もう全員これ言うな)
黒衣の女が攻撃を避けたその瞬間、右手に持った匕首が青く光り、その光がジョルティに向かって放たれました。光によって、ジョルティは傷を負ったようです。
〈スキル・ブレードレイ〉匕首から放たれる光線
黒衣の女が攻撃を回避した際、自動的に反撃を行う
ジョルティ「なんかチクッときた!?ビーム飛んできたよ!?」
頭の中に響く声《さてと、誰を狙ったものか……》
黒衣の女は、ジョルティの叫び声を意に介さず、ティエに向かって匕首を振りました。しかし、匕首は大振りで、ティエには当たりません。
頭の中に響く声《調子が悪いのか……》
次にティエは、改めて黒衣の女の方をじっと見ました。しかし、先ほど得た情報以上のことは、見えてきません。
とりあえず情報を得ることは諦め、足元にあった石を蹴って意識を逸らしてから、短剣で攻撃を行いました。この短剣の攻撃も、黒衣の女は最小限の攻撃で避けてしまいます。
しかし、その際の匕首の角度が悪かったのか、あるいは先ほどの失敗で気が逸れていたのか、反撃で放たれた光はティエに命中しませんでした。
トリシアは集中をして矢を放ちます。矢は黒衣の女のちょうど直上の天井に命中しました。石が転がり落ち、黒衣の女は気を逸らされたようです。黒衣の女は、小さく驚きの声を漏らしました。
クライブは動きが止まったその一瞬を見極め、黒衣の女の様子を観察します。その結果、クライブには黒衣の女が「何かしらの魔法的な守護」を受けていることが分かりました。
その事実で動揺したのか、クライブ自身は落ち着きを取り戻すことができなかったようです。
〈戦況変化〉
前 弓 15
ジョルティ HP6(-1)
前 短 11
黒衣の女 HP20
前 短 10
ティエ HP16
後 弓 9
トリシア HP21
前 剣 6
クライブ HP9
〈ラウンド2〉
クライブに続くように、ジョルティもまた黒衣の女の方を見つめます。クライブの得た情報を元にすることで、ジョルティは「魔法的な守護」が右手に持った匕首からもたらされていることに気付いたようです。(私は最初から気付いていましたよ!)
ジョルティは始め黒衣の女の体に矢を向けていましたが、咄嗟に狙いを匕首へと切り替えました。……と、そこまでは良かったのですが、矢は大きく外れて後逸しました。
しかし、黒衣の女はジョルティの視線や矢尻の方向から、彼が本体ではなく匕首を狙っていることに気付いたようです。先ほどと同じように、驚きで小さく声を漏らしました。
頭の中に響く声《……気付かれたようだな》
しかし、それと同時に、匕首はまたも青い光をジョルティへと発射しました。この光は先程よりも強くジョルティの体を焼いたようです。
ジョルティ「いったいなーあのビーム!でも、まあ驚いているようだし、アレがタネで間違いないな」
黒衣の女は、匕首を狙われたことで動揺しているようです。クライブに向かって匕首を振るったものの、クライブは咄嗟に鎧で受け、全く傷を負いませんでした。
頭の中に響く声《動揺することはない、リン。落ち着け》
ここで、頭の中に響いてくる声が、リンという名前を口にしました。……?誰のことでしょうか?
ティエ(リン……?もしかして、私達はこれまであの匕首と話をしていたのでは……?)
ティエは何かを思案しているような様子でしたが、すぐに考えを切り替えて集中して短剣を振るいました。
この短剣は直接傷を付けるためではなく、動きを予測できていることを誇示するためのもののように見えました。
頭の中に響く声《小賢しい……》
続いて、トリシアが再び弦を引きます。しかし、よく見ると弦には矢が番えられていません。空打ちをする様子を見せつけたようです。
黒衣の女は挑発されたと感じたのか、鋭い目でトリシアの方を見ていました。しかし、落ち着きを失っているような様子は見受けられません。同時に、青い光が放たれ、これがトリシアに命中しました。
そこでクライブが黒衣の女へと急接近を掛けて剣を振りました。猛追する彼の動きを体だけで避けきる事はできず、反射的に匕首で受け止めます。匕首を握る手に、かなりの衝撃が走ったように見えました。
クライブ「ぜやぁっ!」
頭の中に響く声《……なかなかやる》
〈戦況変化〉
前
弓 15 ジョルティ
HP3(-3)
前
短 10
黒衣の女 HP20 握力残り1(-7)
前
短 10 ティエ
HP16
後
弓 9 トリシア
HP18(-3)
前
剣 6 クライブ
HP9
〈ラウンド3〉
ジョルティは流石に自らの体力に危険を感じたのか、素早く後方へと下りました。黒衣の女はその動きを見て舌打ちをしていました。射程から外れたことを心底残念がっているようです。
仕方ないとばかりに、視線を変えて、先ほど匕首に攻撃を当てたクライブへと攻撃を行いました。今度は鎧に弾かれないように隙間を縫うことに成功し、クライブの体に小さいものの確かに傷が付きました。
クライブ「つぅっ……」
ティエもクライブと同じく匕首に向けて攻撃を行いましたが、こちらは命中しませんでした。青い光が放たれて、ティエの体をわずかに焼きます。
トリシアは再び、矢を番えずに弦を震わせ、黒衣の女の気を引こうとします。しかし、黒衣の女は全くそちらのことを意に介していないようでした。
攻撃には失敗したものの、今度は青い光が放たれません。
トリシア「あれ、飛んでこない?」
ジョルティ「種切れ?」
クライブ「の、ようだな」
頭の中に響く声《……リン、燃料切れだ。魔力を使いすぎたな》
……もしかして、この「リン」というのが黒衣の女の名前なのかもしれない、と気付いたのはこの辺りです。ということは、この頭の中に響いてくる声はあの匕首の物なのでしょうか?
喋る匕首……ということで、私はここで一つの可能性を思い出しました。あれは、きっと「隕鉄」で出来ている武器なのでしょう。
遥か遠くから飛来した隕石の中に含まれる金属である「隕鉄」は、極めて稀少なものです。中には意思を持ち、この匕首のように頭の中に語りかけてくる場合があると聞きます。
……いえ、最初から気付いていましたが。
私がそんなことを思案している間に、クライブは再び匕首へと剣を命中させました。黒衣の女……リンは匕首を握り続ける事ができず、匕首は後方へと弾き飛ばされました。
リン「……ヴェルガ!」
トリシア「そっちがヴェルガだったんだー」
やはり私の推理は正しかったようですね!
トリシア「さーて、リンちゃんはどうするのかなー?」
リン「……!気軽に呼ぶな……!」
トリシア「あっ、はい」
〈戦況変化〉
後
弓 15 ジョルティ HP3
前
短 10 ティエ
HP13(-3)
後
弓 9 トリシア
HP18
前
無 9
リン
HP20
前
剣 6 クライブ
HP7(-2)
〈ラウンド4〉
ジョルティはこれまで、一度も矢を当てられていないことを省みたようです。直接当てようとするのではなく、壁を使って反射させることで軌道を変えるという作戦で矢を命中させることに成功しました。
矢は急所こそ外れているものの、リンに大きなダメージを与えました。
ジョルティ「当たらないなら、当たらないなりの当て方でね!」
リン「……戦場で傷を負うなんて……」
続いて、ティエも接近して短剣を振ります。本来の彼女なら当たらなかったであろうその攻撃も、避ける事ができずに命中しました。ジョルティの矢ほどではないものの、確かに傷を与えました。
トリシアはまたもや空打ちでリンを挑発しますが、リンは全く見ていませんでした。……思えば、トリシアは今回一度もリンを傷付けるための攻撃をしていません。
いつもの彼女であれば、一発目から急所を狙っていそうなものですが、なにか思うところがあるのかもしれません。
リン「ヴェルガがいないなら……私がやるしかない」
トリシア(リンちゃん頑張って)
リン「……カランド様……力を貸してください」
リンは、微かに聞こえるような声でそう呟きながら、懐から「銀飾の短剣」を取り出しました。クライブは見覚えのあるナイフに何かを思案しているようでしたが、結局倒すしかないという結論に至ったようです。
クライブの振るった剣は、リンに命中し、大きく傷を付けました。しかし、リンはまだ倒れていません。もうほぼ、意思の力だけで立っているような状態に見えました。
クライブ「ちぃっ……踏みとどまったか」
リン「痛い……手も……足も……」
リン「ヴェルガ……一人じゃもう……」
〈戦況変化〉
後
弓 15 ジョルティ HP3
前
短 10 ティエ
HP13
後
弓 9 トリシア
HP18
前
短 9
リン
HP1(-19)
前
剣 6 クライブ
HP7
〈ラウンド5〉
ジョルティは本気で攻撃をしてしまうと、リンを殺してしまうと思ったようです。矢を放ったものの、明らかに力を緩めているのが見て取れました。
そのせいもあってか矢の軌道が思っていたのとズレてしまい、命中しませんでした。
ティエも攻撃を行いましたが、これもまた命中しません。リンは満身創痍の様子ではありますが、まだ落ち着きを保っているようです。
トリシアはまた、当てるつもりのない攻撃を行いました。やはり、彼女に傷を付けるつもりはないようです。これも、目の据わっているリンには全く影響を与えていないようでした。
そして……リンは銀飾の短剣を握る手に力を込め、鋭い目でクライブを見据えました。
匕首を弾かれたことや、手足に傷を付けられたこととは関係なく、今仕留められるのはクライブだと冷静に判断をしたように見受けられました。
これまで、動揺していたのかあまりこちらにダメージを与えることができていなかったリンでしたが……その一撃はこれまでのどの攻撃よりも明らかに鋭いものでした。
引き抜かれた銀飾の短剣から、血が滴り落ちました。
短剣はクライブの鎧を突き抜け、腹部に大きく傷を与えていたようです。クライブは大きく出血し、その場に倒れこみました。
クライブ「なん……だと……!?」
リン「ヴェルガ……一人でもこれぐらいなら……!」
ジョルティ「クライブさぁん……」
ティエ「クライブさん!?」
トリシア「あいついっつも倒れてんな!」
〈戦況変化〉
後
弓 15 ジョルティ HP3
前
短 10 ティエ
HP13
後
弓 9 トリシア
HP18
前
短 9
リン HP1
前
剣 6 クライブ
HP-1(-9) 気絶
〈ラウンド6〉
ジョルティは手加減をして攻撃をするのは止め、今度はフェイントへと攻撃方法を切り替ました。リンはクライブを倒したことで昂ぶっているのか、その行動にも冷静さを欠いているように見えました。
リン「邪魔をするな……こんな矢が……!」
ジョルティ「この世界の女の子ホントいちいちコワイヨー」
そうでしょうか?私としてはあまりそうは思わないのですが。陰がないより、陰がある方が魅力がありますよね。……これは私の個人的な感想ですが。
落ち着きを失ったリンに、ティエが短剣で攻撃を行いました。今度は命中し、リンはその場に倒れ、意識を手放したようです。
リン「ごめんなさい…‥ヴェルガ……カランド様……」
リンが倒れると、周囲から甘い香りが引いていきます。ちょっと気に入っていた香りだったので残念でしたが、まあ彼らにとっては良いことでしょう。壁際の鉱夫たちにとっても、もちろん同じです。
彼らはまだ目を覚ましていませんが、命に別状があるようには見えません。
《戦闘終了》
ジョルティ「クライブさん息してる?」
ティエ「返事がない、ただの気絶のようだ」
ジョルティとティエはとりあえず倒れたクライブの様子を見て、まずは命に別状がなさそうなことを確認しました。かなり深く入っていましたが、鎧があったお陰でなんとかなったようです。
その間、トリシアは倒れたリンを捕縛していました。
ティエは遠くに飛ばされていった匕首を拾いに行き、ジョルティは鉱夫の手足を縛っている縄を解きに行きました。
ティエが匕首を拾い上げると、俄かに目が緑色に光りました。どうやら匕首は意識を失っており(多分、この表現は生涯で二度と使いません)、手にした者を自動的に守護しているようです。
トリシア「なんか目光ってる」
ジョルティ「緑かっけえ」
ティエ「なんかバフがついた気がします」
トリシア「まあ、とりあえず自分らも消耗してるし、少し休むかい」
ジョルティ「怖いしね。とりあえず、なんか食べられるものがないか探してくる」
そう言って、ジョルティは洞窟の中で獲物を探し始めました。……すっかり元気なように見えます。体力からするとかなりボロボロのはずなのですが……。
〈狩猟判定:坑道:目標8〉
ジョルティ:Critical
ジョルティは坑道に逆さに留まっているコウモリに目をつけ、いとも容易く捉えました。それも適当に捕まえるのではなく、美味しそうなものを選別して捕らえたようです。……本気の出しどころが違いませんか?
〈野営判定:目の慣れた暗い坑道:目標8〉
ティエ:11(サポート成功)
トリシア:7(失敗)
その間、ティエとトリシアは野営の準備をしていましたが、疲れもあってか上手く整いませんでした。とは言え、後は帰るだけですから、それほど気にしていないようでしたが。
とりあえずジョルティの取ってきた美味しそうなコウモリ(多分、これも生涯で二度と使いません)を食べて、眠ることにしたようです。
寝る前に、ティエは拾った匕首をジョルティに渡し、ジョルティはそれをポーチにしまいました。
……今が何時なのかも分かりませんが、私も存外疲れました。今日は化身をして、カナリアの籠の中で眠ることにしました。……数時間経つと、このカナリアがやたら話しかけてきて、選択を誤ったな、と思いました。
ともあれ、彼らも私も、四半日程眠り、清々しい坑道の朝を迎えました。いや、時間は分からなかったんですけども。
リンもクライブも、意識を取り戻しているようです。鉱夫は深く魔香を吸っていたのか、まだ目を覚ましていませんでした。
トリシア「おはようさん」
クライブ「……また沈んでいたか」
彼らが起きだした頃、また頭の中に響く声が聞こえてきました。
ヴェルガ《……暗いな。ここはどこだ?リン、無事か》
ジョルティ「俺のポーチの中。リンちゃんの無事は保証するから、大人しくしといて」
トリシア「リンちゃんも起きてる?」
ヴェルガ《……リンは無事か》
頭の中に響く声は、どこかホッとしているように感じました。
リン「……何。ヴェルガを返して」
トリシア「殺す気はないけど、渡す気もないです」
ジョルティ「ヴェルガさんは無事だ。今はまだ返せないけど」
リン「……何をすれば良いの。ヴェルガを返して」
リンもリンで、隕鉄の匕首に信頼をおいているようですね。隕鉄と人間との間にも、このような関係が築けるものなのでしょうか。それなら、竜人と人間とも、ともすれば仲良くできるかもしれませんね。……いえ、何でもありません。
ジョルティ「質問に答えて貰えれば無事に返すよ」
リン「何が聞きたいの」
ジョルティ「蠍のことも含め、今回のあんたらの目的についてとりあえず。それと、あんたらを動かしているのは昨日口走ってたなんたら伯でいいのかな?」
リン「……私達の目的は、銀の簒奪よ」
リン「レイジャのことは何処まで知ってるの。……蠍のことね」
ジョルティ「なんでも知ってるよ!ディラが神話生物だってこととか!……嘘だけど」
リン「……まあ、あの人のことだから、大したことは話してないんでしょ」
ジョルティ「うむ。盗賊ごっこしてたけど、大した忠義者だったよ」
リン「私も彼も、目的は同じ。彼は直接、私は搦手で銀を簒奪しに来たのよ。鉱夫を魅了すれば、横流しをさせることも簡単でしょう?」
ジョルティ「ふーん。その主様はお金にでも困ってるのかい?あと、あんたら2人以外にも同じようなことをしている手下はまだいるのかい?」
リン「お金になんて困っていないわ。私達と同じことをしている人もいない。銀を狙っていたのは私達だけよ。……どうやら、どちらも貴方達に邪魔されたようだけど」
ジョルティ「たまたまね。お金に困ってないなら、他に何かやんごとなき理由でも?」
ここまで、匕首を返してもらうためかスラスラと返答をしていたリンでしたが、ここで初めて返答が遅れました。何かを言い淀んでいるような雰囲気を感じます。
リン「……理由はある」
リン「……けれど、それは話せないわ。話してしまったら、意味がなくなってしまう」
ジョルティ「んー、そっかー。ちょいまち」
そういうと、ジョルティはリンには聞こえないような声で話を始めました。匕首はポーチに入っているため、そちらには聞こえているようです。
ジョルティ「ヴェルガくーん、ちょっと俺にだけ聞こえるように話してね」
ヴェルガ《何だ、我にも聞きたいことがあるのか?》
ジョルティ「当然、この後町の人にリンちゃんを引き渡すんだけど、後でリンちゃんの身柄を擁護する代わりに追加情報を求めたい」
ヴェルガ《我はリンの刃だ。リンが話さないことを話すことは出来ない……が……そうだな》
ヴェルガ《少々条件が足りないな。……リンの身柄をこのまま解き放つのであれば、我々のことを教えよう。リンはああ言っているがな、ここで捕らえられるのは正直なところ困るのだ》
ジョルティ「そうか。はい、皆集合!……と、こういうことなんだけど、どう思う?」
トリシア「正直、こいつらが善行のために悪行をしているのかすら聞いてないんよね。協力求める気はないところから見て、筋が通っている感じでもないんだろうけど」
ジョルティ「まあ、ぶっちゃけ俺らは鉱夫の身柄確保だけが仕事だし?少しでも真相の方を知りたいけど」
クライブ「……情報が得られるなら、解放してしまうのも手ではあるな」
トリシア「ただ、リンを解放したところで、得られる情報がそこまで意味のあるものなのかと。目的が分かったところでまた脅威になるなら、いっそ」
ジョルティ「お前そういうのやめろよな!蛮族か!?」
トリシア「解放してまた刃を向けられるとかアホらしくないか。自分にとっては技術を教わってる町でもあるし、そっちが優先だよ」
ジョルティ「町にとってはね。だったら、原因を根絶した方が良いって話もある。どこまで首を突っ込むかにもよるけど」
ティエ「とりあえず、状況を纏めてみましょう。彼女を解き放つ場合は……情報を得られるのがメリットで、彼らからの脅威が残るのがデメリット。彼女を突き出す場合は……彼らの脅威が取り去られるのがメリットで、情報が得られないことと、彼らから敵視される可能性があるのがデメリット」
そこで、なかなかまとまらない議論に業を煮やしたのか、匕首がこちらにだけ聞こえるように話しかけてきました。
ヴェルガ《……そうだな、信じてもらえるかは分からんが、一応言っておこう。我の話を聞くならば、我々が諸君に刃を向けることはなくなるだろう。……考えたくない事態を除けば、だが》
トリシア「そういうのは先に言ってよー」
ティエ「……まあ、彼らから襲われないのであれば、解放するのでいいのかなぁ」
クライブ「……解放、ということでいいか?」
ジョルティ「OK」
トリシア「へい」
ジョルティ「と、いうことだ。情報を頼む」
ヴェルガ《……助かる。ならば、こちらの事情も話せる範囲で話そう》
ヴェルガ《我々の目的は、カランド・アージェント伯を殺害することだ》
ヴェルガ《いや……少し語弊があるな。カランド・アージェント伯を生の楔から解き放つことだ。カランド伯は、もはや生ける屍。生きているとは言いがたい》
ヴェルガ《我々が銀を求めていたのは、不死を殺すのに銀が適しているためだ》
ジョルティ「なん……だと……」
ヴェルガ《…‥だが、カランド伯がこのような状態になっていることは、まだ我々以外は知らぬ。我々はカランド伯を殺すことを目的としているが……同時にアージェントの名誉を穢して回ることも避けなければならない。レイジャやリンが話をしようとしないのはその為だ》
ヴェルガ《他に、聞きたいことはあるか》
ジョルティ「今後もゴレンの人々に危害を加えるつもりは?」
ヴェルガ《リンは失敗したが、レイジャはある程度銀を集める事ができたはずだ。……後は我々の実力で賄う事もできるだろう。もし、お前達がそれを望むのならば、そうしよう》
ジョルティ「うん、それは頼む」
ヴェルガ《承った。リンに伝えておこう》
ジョルティ「後は……その伯がそうなった原因について聴いてもいいか?」
ここで、初めて匕首も言い淀みました。もしかすると、アージェントを巡る問題は、思いの外大きいものなのかもしれません。
ヴェルガ《……出来れば、そのことは黙秘させて貰いたい》
ジョルティ「あいあい。後、今後君たちに連絡を取りたい時に手段はある?」
ヴェルガ《……難しいだろうな。見るに、連絡魔法を使える者はいないだろう》
ジョルティ「そうかー……そういえば、銀飾のナイフは5本あるって聞いたんだけど、残りの3本を持っている人は?」
ヴェルガ《……我々と行動を共にしているものは後2人いる。彼らはアージェントに残り、街の穢れ祓いと執務の代行をしているはずだ》
ジョルティ「ん?アージェントってもしかして今やばいの?」
ヴェルガ《いや、彼らの働きで、市井にまでは穢れが及んでいないはずだ》
ジョルティ「ふーむ。あ、そうだ、レイジャは放っておいていいの?」
ヴェルガ《レイジャは捕まっているのか?……存外不甲斐ないな。まあ、そちらは心配には及ばない》
ジョルティ「あのおっさん強すぎて俺らも相当ヤバかったけどな。色んな意味で。まあ了解」
ジョルティ「じゃあ、鉱夫に見つからない内に、リンちゃんを解放するか。うまいこと説明して、引き下がってもらってね」
ヴェルガ《承知した》
トリシア(貸しだ貸しだー)
そう言ってジョルティは、ポーチにしまっていた匕首を取り出して、リンへと返しました。
リン「ヴェルガ……!」
ヴェルガ《リン。交渉の結果、こういうことになった》
リン「……分かったわ。私達は夜にでもここを出るわ。先に、帰って」
リンはその言葉に続けて、聞こえないほど小さな声で「感謝するわ」と続けました。彼らに聞こえていたかどうかは、分かりません。
さて、その後はジョルティを中心に鉱夫の縄を解き、ゴレンまで戻ることになりました。……そのことについても物語にしようと思いましたが、全く話をするようなこともありませんでしたので……このような形と致します。
《ブレス発動:ミライ》
ジョルティとクライブがそれぞれ鉱夫を担いで、鉱山からでたのは半日程後のことです。クライブなどは満身創痍の様子でしたが、帰り道は全く躓くようなこともありませんでした。
坑道から出てきた彼らを、すぐ傍の詰め所で待っていたらしいディストが迎えました。
ディスト「おお……戻ったか!」
ジョルティ「ただいまー」
ディスト「鉱夫たちも無事か……!本当に良くやってくれた、お前達に頼んだのは正解だった!」
ディストはそう言うと、2人が担いでいた鉱夫を軽々と引受けました。流石の筋肉と言わざるを得ません。
ディスト「どう礼をして良いか分からねえな……金で報いきれるもんでもない」
ジョルティ「とりあえず美味い料理は確実に下さい」
ディスト「言うまでもない。最初から用意させてある」
ジョルティ「じゃあ、他はなんでも良いや。交渉任せた!」
ディスト「……そうだな、名残惜しいが、お前達もまた旅に出るのだろう。武器は無駄にならないはずだ」
ディスト「利益は度外視で、安く武器の打ち直しをしよう。高品質な武器も、頑丈な武器も、綺麗な武器もお手の物だ」
クライブ「……ありがたい、助かる」
ディストはそう言って、星の形をした勲章のようなものを手渡しました。
ディスト「これはゴレンの英雄の証だ。一度ならず二度までも、本当に世話になった」
ディスト「ところで、坑道では何が起こっていたんだ?」
ジョルティ「昏倒してたから、ガスじゃね?」
ディスト「ガスか、それなら、カナリアも役立っただろうか」
ティエ(あんまり)
……カナリアは私の睡眠妨害に役立ちました。そういえば、あの鳥は魅了の魔香を吸っても、すぐに元通りになっていましたし……もしかして魔力に抵抗がある鳥だったのでしょうか。……トリシアの煙草には咽ていたようですが。
ともあれ、皆はこうして宿へと戻りました。
宿に戻ると程なくしてゴレンの裏山で猟られたという新鮮な鹿肉を使った料理が振る舞われました。ジョルティは体の痛みも完全に忘れたように食べていました。
第五話後編「黒き鱗粉の誘い」 了
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と、このようにして彼らはリンと戦い、鉱夫を救出することができたのです。レイジャ、それにリンという2人の存在は、彼らの今後にも大きく影響を与えることになるかも知れませんね。
このままアージェントに向かうのかどうかはまだ分かりませんが、そうなった時には、この真相についてもしっかり書き留めてお届けします。
ところで、相変わらず渋い表情をしていますが、どうかなさったのですか?
……リーズさんが来て、話をしていった、と。それで……なるほど、そんなことがあったんですね。……次の旅で槍が降ったら、ジョルティのせいということにしましょう。
何にせよ、私の旅人達は少々自由すぎるきらいがあります。もちろん悪いことではありませんが、しっかり目付けをしなければなりませんね。
【MVP:トリシア・クライブ】
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こちらは、2016/6/11に行ったオンラインセッションのリプレイです。
前日10日に行ったセッションの中でのロールプレイを受けて、方向性を大幅に修正しました。(元々はリンというキャラクターは存在せず、アージェントもただ金に困っているだけの都市になる予定でした)。
結果的に、完全に緑竜色のシナリオからは足を踏み外しました。段々黒くなっていきそうな雰囲気がします。
この回はノーティのPLが参加できないことが最初から分かっていたため、街から出ないシナリオで考えたのですが、結果的には正解だったかと思います。リンちゃんはトリシアのPLなどから評判でした。
見返してみると、ジョルティのセリフ分量がかなり多かったと思います。もうちょっと、それぞれに活躍の場があるようなシナリオにできればなあ、と思っている次第であります。
それでは、次回のリプレイをお待ち下さい。プレイがまだなので、リプレイも少し遅くなるかと思います。
【参考サイト】
りゅうたま公式(ルールブックの無料配布を行っています!ぜひやってみてください。ルールが分かるとリプレイで何が起こっているのかも少しわかりやすくなるかと思います!)
りゅうたまポータル(様々な情報が集まっています。ここからフレーバーなどを借りることがあるかも知れません)
Rinmarugames AvatarCreator(キャラ画像の作成に使用しました)
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